善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

大阪美術館めぐり 下

大阪2日目。

午前中、時間があったので中之島にある大阪市立東洋陶磁美術館へ。f:id:macchi105:20200928090312j:plain

特別展「天目―中国黒釉の美」と、特別展に併せて開催する特集展「現代の天目―伝統と創造」、さらには安宅コレクションを中心とした中国・韓国・日本の陶磁器コレクション展を見て回る。

会場吹き抜け1~2階のエントランス部には巨大な竹のオブジェが。

大阪の竹工芸作家・四代田辺竹雲斎氏(1973~)制作のものという。f:id:macchi105:20200928090342j:plain

f:id:macchi105:20200928090359j:plain

まずは特別展。目玉は、同館所蔵で国宝に指定されている「油滴天目」。

中国・天目山一帯の寺院で用いられていた天目山産の茶道具で、天目釉と呼ばれる鉄分の多い釉薬をかけて焼かれた陶器の茶碗のことを「天目茶碗」という。中でも有名なのが中国宋時代に建窯(けんよう)でつくられた曜変天目と油滴天目だ。

国内には、国宝に指定されている曜変天目が三つ、油滴天目が1つ、鼈甲(べっこう)模様の玳玻天目茶碗(たいひてんもく)が1つ存在していて、曜変天目の2つは東京国立博物館京都国立博物館で見たことはあるが、油滴天目は初めてだ。

 

油滴天目は福建省にある建窯で宋時代に焼かれたもので、釉薬の表面に生じた油の滴のような斑文がその名の由来。f:id:macchi105:20200928090428j:plain

茶碗の内外の黒釉にびっしりと生じた銀色の斑文には、青色や金色などに輝く光彩(虹彩)が加わり、幻想的な美しさを見せている。f:id:macchi105:20200928090452j:plain

f:id:macchi105:20200928090511j:plain

「重さは349gで、手に持つと安定感のある心地よい重みが伝わる」と説明書きにあるが、とても一般人が持てるものでもなく、ただため息をついて見るしかない。

もともと関白・豊臣秀次(1568~1595)が所持していたのを、西本願寺、京都三井家、若狭酒井家に伝来し、現在同館所蔵となっている。

 

木葉天目は重要文化財f:id:macchi105:20200928090533j:plain

見込み(器の内側の部分)に本物の木葉が焼き付けられていることから「木葉天目」と呼ばれる。

さらに、見込みの一部には金彩の梅花文の痕跡も確認できるという。

加賀藩主前田家に伝来したものといわれる。

 

天目茶碗はほかにもいろいろあるようで、いずれも宋の時代のものだが、いくつか展示されていてどれも美しい。

禾目(つぎめ)天目。

内外に細かな粒状の斑文が連なった天目茶碗。f:id:macchi105:20200928090559j:plain

f:id:macchi105:20200928090616j:plain

虹色の輝きが美しい。f:id:macchi105:20200928090634j:plain

f:id:macchi105:20200928090652j:plain

 

玳玻(たいひ)天目。

鼈甲(べっこう)を彷彿させる色合い。f:id:macchi105:20200928090712j:plain

これも玳玻天目だが、見込みには「剪紙(切り紙)」技法を用いて3羽の飛鳥が描かれている。

f:id:macchi105:20200928090736j:plain

白覆輪天目。

宋時代から金時代にかけて、北方の窯で焼かれた天目で、口が白く縁取りされている。f:id:macchi105:20200928090759j:plain

f:id:macchi105:20200928090818j:plain

 

一方、近現代の作家たちも天目茶碗の再現というか、さらに発展した器づくりに取り組んでいて、どれもなかなかの名品ぞろいだ。f:id:macchi105:20200928090839j:plain

九代長江惣吉(1963年~)の「曜々盞」。f:id:macchi105:20200928090905j:plain

瀬戸の陶芸家で、父・八代長江惣吉(1929~1995年)の曜変天目再現の研究を受け継ぎ、親子二代で曜変天目の「再現」に取り組んでいて、美しい虹色の光彩を活かした独自の作品を創作した。曜変天目の再現研究の副産物といえるものなのだそうだ。

 

そういえば何年か前、テレビ東京系の「開運!なんでも鑑定団」という番組で「曜変天目茶碗」が登場。鑑定家の中島誠之助氏が「本物」と鑑定して2500万円もの値が出て「国宝になっても不思議ではない大名品」と称賛したところ、それを見た長江惣吉氏が異を唱え、「現代作家でもつくれるもので、番組に出たのは紛い物」と断じたが、あの“事件”はその後どうなったか?

中国の陶芸家が「あれは私がつくったもので、日本円で1400円ほどで販売した」とのニュースもあったみたいだが・・・。

 

人間国宝の作家も天目茶碗に挑戦している。

人間国宝・清水卯一(1926~2004年)の「蓬莱燿茶碗」。f:id:macchi105:20200928090934j:plain

笹岡基三(1936~2019)の「金彩木の葉天目茶碗」。f:id:macchi105:20200928090958j:plain

漆芸家・藤澤秀行(1972年~)による「曜変天杢」は漆器による曜変天目f:id:macchi105:20200928091020j:plain

彼は漆器による樂茶碗の制作で知られていて、陶器と見まがうばかりの「漆の樂茶碗」で独自の世界を切り開いているが、漆器による曜変天目づくりにも取り組んでいる。

曜変の光彩が構造色であることに着目した藤澤は、同じ構造色による虹色の発色を見せる鮑貝の内側部分を薄く研磨し板状にしたものを、さらに曜変の斑文のようにリング状に焼き切り、それを漆器の表面にはめ込む「螺鈿(らでん)」の技法で曜変に挑んでいる。

また、素地となる木材にもこだわり、「虎杢(とらもく)」と呼ばれる虎模様の生じた栃の木を用いて、碗の外面はその模様をそのまま活かしている。

 

天目茶碗以外も名品ばかり。

国宝の「飛青磁 花生」(14世紀・元時代)。f:id:macchi105:20200928091108j:plain

毎朝、近所の善福寺公園で見るカワセミを描いた壺もあった。

「粉青鉄絵 蓮池鳥魚文 俵壺」(15世紀後半から6世紀前半・朝鮮時代)

蓮の間を魚を狙うカワセミが空から舞い降りてきたところ。f:id:macchi105:20200928091136j:plain

f:id:macchi105:20200928091203j:plain

粉々になったのが復元された「白磁 壺」(18世紀・朝鮮時代)f:id:macchi105:20200928091232j:plain

作家の志賀直哉から東大寺元管長・上司海雲師に贈られたもので、1995年に盗みに入った泥棒が地面に叩きつけ、粉々にされたのを、修復を経て以前と変わらない姿でよみがえった。

よくもこんなに見事に修復したものだ。スゴイ技術に驚く。

 

陶磁器を堪能したあとは、すぐそばにある大阪市中央公会堂内にあるレストラン「アウェイク」で昼食。

海老挽き肉、レンコン、マッシュルームのカレー。f:id:macchi105:20200928091259j:plain

店内はレトロな雰囲気で、建物は国の重要文化財に指定されている。

 

帰りは大阪伊丹空港1階のバルカフェで飛行機待ちのイッパイ。

生ビールにワイン。つまみをいろいろ頼んでいるうちに、1杯が2杯、2杯が・・・。f:id:macchi105:20200928091323j:plain

f:id:macchi105:20200928091342j:plain

f:id:macchi105:20200928091359j:plain

いい気分で東京へ。