善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

建築学概論

TSUTAYAで借りてきた韓国映画建築学概論』を観る。去年日本で公開。

どんな映画かと思ったら、淡い初恋を描いたラブストーリーだった。
甘い甘い話だったが、もう遠い過去のこととしてすっかり忘れていた、純粋だったころの自分を思い出させてくれる映画だった。
たとえオジサンでも胸がキュンとなるのは必至の映画。そして、見終わればきっと一緒に見た人と、「あの結末は・・・」と議論になるのが必至の映画。

ある建築事務所にソヨンという女性が訪ねてきて、その事務所で働いている建築士スンミンに設計の仕事を依頼する。2人の年齢は33、4。
実は2人は15年前、同じ大学に通う学生で、2人は初恋の相手同士だったのだ。
そこで物語は、15年前の過去と現代が交差するようにして進んでいく。

建築学科に通う大学1年のスンミンは、「建築学概論」の授業で音楽科の学生、ソヨンと出会い、一目惚れをしてしまう。だが、ウブで奥手のスンミンは自分の思いを彼女に伝えることができない。

この「建築学科概論」の授業がおもしろかった。ジーパン姿の教授も個性的な感じだったが、どうやらこの大学の「建築学科概論」の授業は1、2年生を対象とした教養科目の授業のようで、建築学科の学生だけでなく、他学部の学生も受講できる。
教授は、授業のテーマとして「街」をあげる。自分が今、住んでいる街を探検してみて、普段気づかなかった道路や建物を観察し、写真を撮ってこよう、と呼びかけ、「これこそが建築学概論だ」みたいなことを言う。

この映画の監督はもともと建築学科の出身だそうで、映画ではソウルの街を歩く主人公2人の姿が微笑ましく描かれている。

スンミンとソヨンはたまたま近くに住んでいて、それで2人は「一緒に街を歩きましょう」となるのだが、始めよそよそしいそぶりを見せていたソヨンにとっても、スンミンは初恋の相手だったのだ。
だが、2人は「好きだよ」とか「愛してるわよ」なんて言葉は一言も発しない。それが初恋というものだ。そして、何もいわないまま、互いを誤解したまま、分かれてしまう。

これはメールとかLINEとかが飛び交う現代の話ではなく、15年も前の、男も女もみんなウブだったころの話。だから、相手に思いを伝えるにはジカに訪ねていかなければいけないし、ウォークマンとかポケベル、髪の毛をコテコテにかためるヘアムースなんかが登場して、時代の雰囲気を醸し出していた。

もう1つ、興味深かったのが、「指切りげんまん」と「しっぺ」が登場していたこと。

小指と小指をまげてひっかけ合い、「約束」とヒロインが言う。
日本だったら「指切りげんまん、ウソついたら針千本飲~ます」というところを、韓国では「約束」と言うようだが、あれ? 指切りって日本だけじゃなかったの? 

ネットで調べたら「指切りげんまん」の「げんまん」って、げんこつで1万回なぐるというオソロシイ意味らしく、もともとは遊女が客に愛情の証としてホントに小指を切断していたのを、一般の人にも普及して、約束を必ず守る意味へと変化していったのだという。ヤクザ映画でも小指を切るシーンがあるが、これも忠誠を誓う証としての行為なのだろう。
しかも、「指切り」は日本だけの専売特許ではなく、中国、朝鮮半島ベトナムなどアジアの諸国で昔からの風習として存在しているのだという。

一方の「しっぺ」とは、一般に人指し指と中指とで相手の腕のあたりを打つことを言うが、しっぺとは「竹箆(しっぺい)」、竹でできた杖のことで、座禅をしていて居眠りをしているような人を諫めるため「ピシッ」と竹箆で打つのが転じて、しっぺとなったらしい。
つまり、もともとは仏教用語だから、韓国にもしっぺがあって不思議はない。
ちなみに日本ではすでに1600年ごろにはしっぺが行われていたらしい(日本国語大辞典による)。

映画の予告編にも大学の「建築学概論」の授業風景が出てくる。