善福寺公園めぐり

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シルクロードの古代都市

加藤九祚シルクロードの古代都市──アムダリヤ遺跡の旅』(岩波新書

中央アジア最大の川がアムダリヤ川アフガニスタン領ヒンドゥクシュ山脈に源を発し、西の方に大きく蛇行しながら流れていって、元々はアラル海に注いでいたが、今は途中までで干上がってそこでデルタ地帯を形成している。延長2574mもの大河。

チグリス・ユーフラテス川メソポタミア文明インダス川インダス文明と同様、アムダリヤ川沿いにも数千年の昔から文明が栄えたという。
しかし、この文明の実像が明らかとなったのは近年のことであり、この半世紀の国際的な調査によって発掘が進み、次々と遺跡が発見されているという。
世紀の発見といっていいかもしれないが、そんな文明があったなんて、まるで知らなかった。
筆者は齢90を超えて今なお現地で発掘調査に携わっていて、青銅器時代からヘレニズムまでを視野に、最新の研究成果を紹介してくれるのが本書。

シルクロード文明の中心となった諸都市を流域に持っているから、東西交流の多彩な顔をみせるのがこの地域の文明の特徴だろうが、ヘレニズムの影響が大きいのも見逃せない。

特にアフガニスタン北部にあるアイハヌム遺跡は、アレクサンドロス大王の東方遠征が残したヘレニズム文明の影響が色濃く残っており、フランスのベルナールらの発掘調査によって、噴水や劇場、図書館、体育場など、古代ギリシャ都市に特徴的な施設を備えた都市の跡が次々と発見されているという。

また、タジキスタン南部のタフティ・サンギン遺跡では、旧ソ連などの調査団によって神殿遺跡が発掘され、さまざまな遺物が出土している。

アレクサンドロス大王はインド遠征をめざすが結局、志半ばで死んでしまった。しかし、彼の足跡はヘレニズム文化となって花開き、東西文明をつなぐ架け橋ともなった。

本書で筆者は、アイハヌムとタフティ=サンギンの発掘、さらにはインドとバクトリア中央アジアのヒンドゥクシュ山脈とアムダリヤ川上流のあたり)とを結ぶ「インドの道」(つまりシルクロードの東の起点は中国だけでなく、インドから西方につながる道もあった)の発見は、ガンダーラ美術の起源がバクトリアに発するギリシャの影響にあるとの説を著しく強化した、というようなことをいっている。

つまり、ギリシャの影響を受けたヘレニズム文化と融合したのがガンダーラ美術であり、これが仏像の原型となり、中国などを経て日本にまで伝わっていった。

本書の主題からは離れるが、オヤッと思ったのは本書の「あとがき」にある筆者の歌。

アム川の白き流れを目じるしに、やよいの空を鶴鳴きわたる

春の弥生のころのアムダリヤ川沿いに飛ぶ、ツルの群れを歌ったもの。

そういえば数日前、NHK・BSの番組でとても感動的なのがあった。
ワイルドライフ」という番組で、題して「アネハヅル 驚異のヒマラヤ越えを追う」。

アネハヅルという世界最小のツルがいて、夏はモンゴルの草原で過ごし、寒くなると南のインドまで飛んで行ってそこで春を待つ。そのためには4千kmもの大飛行をしなければならず、最大の難関がヒマラヤ山脈越え。強い乱気流と闘いながら8千m級の高峰を越えていくのだという。

その様子がすさまじい。それぞれ数百羽ずつぐらいにまとまってV字編隊を作り、高山を越えていく。その映像がまるで幾何学模様みたいで美しい。

美しいと思うのは茶の間でのんびり見ているからで、上空の気温は氷点下30度、酸素濃度は地上の3分の1という過酷な環境での決死の大飛行だ。
アネハヅルの体が小さいのも、数千mの高さを越えるにはちょうどいい大きさだからで、進化の果ての姿だという。

ツルたちはインドだけでなく中央アジアのあちこちに飛んで行き、そこで越冬しただろう。
さながら北と南を結ぶシルクロードならぬツルロード。

本書の筆者が見たのも、無事に冬を過ごし、再び北へ帰ろうとするアネハヅルの群れだったかもしれない。