善福寺公園めぐり

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モローとルオー展

きのうはパナソニック汐留ミュージアムで「モローとルオー 聖なるものの継承と変容」展を観る。

フランス象徴主義の巨匠ギュスターヴ・モロー(1826-1898)と、彼の愛弟子でのちに20世紀最大の宗教画家と呼ばれるようになるジョルジュ・ルオー(1871-1958)の2人展。
「2人の芸術世界と心の交流を紹介する世界で初めての展覧会」だとか。
会期が12月10日までだったからか、8日の日曜日は人が多く、けっこう混んでいた。

モローもルオーも、じっくり見るのは初めて。ルオーより、師匠のモローの作品に感銘を受けた。

たとえば「ゴルゴダの丘マグダラのマリア」(制作年は不明だが、1850年ごろといわれている)。
陰惨とした景色の中に3本の十字架がたっている。暗い緑。キリストの死を見届けたマグダラのマリアはまるで放心したように足を投げ出している。ここにキリストはいないが、キリストの受難が見事に描かれている。

モローの絵といえば、人間の内面や神秘性などを象徴的に表現しようとする象徴主義の巨匠らしく、神話なんかを題材に細密画風に描いた絵が知られるが、それとは違う印象派の絵のような雰囲気を感じる。
しかしよく見れば、そこにあるのはやはり人間の内面を色彩や絵筆のタッチによって描こうとするもので、やはり象徴主義らしい。

1850年ごろに描かれたものとすれば、モローはこのとき24歳ということになるから、いろんな模索をしている途中の作品なのだろう。と、ここまで書いて驚いてしまう。24歳? その年ですでにこれだけ“枯れた”作品を描いていた。とするなら、やっぱり彼は天才だ。

ピエタ
未完成の作品というが、それがかえって魅力。

「パルクと死の天使」
この作品は1890年ごろと資料に書かれてある。とすると64歳ごろ。24のころの感性がそのまま息づいている気がする。

運命を司る三人の女神パルクの中で最も恐ろしいアトロポスが、死の天使の軍馬の手綱をつかみ、荒涼とした風景を歩み進んでいる。
パレットナイフを使って厚塗りした作品で、細密画とは打って変わって荒々しいタッチ。死の天使には赤い羽根が生えていて、その表情は逆光によって黒く塗りつぶされている。

「女たちと一角獣たちのいる風景」
白い背景を茶色の輪郭線で彩り、どこか水墨画風。

「油絵下絵」と呼ばれる習作もすばらしいものがあり、たとえば「油絵下絵またはヘレネ」という作品は抽象画風の自由奔放な色使いで、「内なる輝き」を感じる。

モローは、60を過ぎてからパリの国立美術学校の教授となり、マティスなど著名な画家を育てたが、中でも愛した生徒がルオーだった。モローは熱心にこの優秀な弟子を指導し、一方、ルオーも師の教えを守り、受け継ぎ、やがて作品の中で我がものとしていく。

2人の往復書簡も展示されていたが、「親愛なる我が子」「偉大なる父」と互いに呼び合っていた。
モローはなかなか返事を寄こさないルオーに苦言を呈し、ときに文字の間違いを注意したりと、弟子を愛する師匠の気遣いがよく見て取れ、ほほえましい限り。

久々に堪能できた展覧会だった。