善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

小澤征爾さんと、音楽について話をする

小澤征爾×村上春樹小澤征爾さんと、音楽について話をする』を読む。

2010年11月から翌年の7月にかけて、6回にわたり村上氏が小澤氏にインタビューしたのをまとめたもの。
これがすこぶる面白い。
たとえば第1回の「ベートーヴェンのピアノ協奏曲第三番をめぐって」は神奈川県にある村上氏の自宅で、レコードやCDを聴きながら対談しているが、流れている曲にいちいちチョッカイを出しながらの対談で、読者も一緒に曲を聴きながら2人の対談に参加している気分。

本書を読んで初めて知ったが、村上氏がこれほどクラシック音楽に造詣が深いとは知らなかった。素人であるにもかかわらずかなり詳しい知識を持っているからこそ、小澤氏も深い話をできるのだろうし、また素人だからこそ、小澤氏はかみ砕いた話を(裏話も含めて)いろいろとしてくれたのだろう。(ことに面白かったのが裏話だったが)

20代から30代にかけて、タダ券がもらえた関係でよくオーケストラのコンサートに行ったから多少は知っているものの、その後はご無沙汰しているのでほとんど門外漢といってよいが、クラシックを知らなくても本書から学ぶことは多い気がした。

それに、私がクラシックを聴いていたころは小澤氏は海外にいたから、彼が指揮する曲をナマで聴くことはなかった。だからいまだに彼のどこがエライのかよくわからないところがあったが、本書を読んでなるほどとスゴサがわかったし、人を引きつける何かを持っているある種の天才なんだなと感じ入った。

面白かったのはマーラーについてのくだりで、マーラーという人は楽器ごとに細かい指示をいろいろと書き込むのが好きな人だったらしい。しかし、そうやって制約があまりにも多い曲であるにも関わらず(いやだからこそ)、自由な表現ができる、と小澤氏は語っていて、ナルホドと思った。

ただ、小澤氏の師匠であるカラヤンが、始めなかなかマーラーをやろうとはしなかった点について、2人はどうしてだろう?と首をかしげているが、マーラーユダヤ人であり、カラヤンは元ナチス党の党員だ。芸術家ではあってもそこには政治的なしがらみがあったのではないか、と思えないこともないのだが。

小澤氏が演歌好きだという話も出ていて、ボストン時代には森進一と藤圭子をよく聴いていたという。ただし、藤圭子の娘の宇多田ヒカルは知らないらしい。
「ひょっとして英語で歌う、顔だちの濃い人?」と聞いているが、これに対して村上氏は「英語で歌っているけど顔だちはそんなに濃くない」と答えている。宇多田ヒカルはけっこう濃い顔だちだと思うけど・・・。

「オーケストラがやってきた」という山本直純のテレビ番組に出演したことがあって、森進一の歌に伴奏をつけた。そしたら、有名な小説家が、クラシック音楽がわかるからといって、それで演歌がわかるわけじゃない、と文句をつけたという。それこそくそみそにいわれたらしい。果たして誰だったのか?

ちなみに内容は次の通り。
第1回 ベートーヴェンのピアノ協奏曲第三番をめぐって
第2回 カーネギー・ホールのブラームス
第3回 一九六〇年代に起こったこと
第4回 グスタフ・マーラーの音楽をめぐって
第5回 オペラは楽しい
スイスの小さな町で
第6回 「決まった教え方があるわけじゃありません。その場その場で考えながらやっているんです」

とにかくオススメの本である。