善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

井上ひさし 言語小説集

井上ひさしの新刊本『言語小説集』(新潮社)

亡くなってからだいぶたつのに、次々と新刊が出ている。たくさんの小説を書いていたんだね。
今回のは、1992年から95年にかけて「中央公論 文芸特集」(季刊)に随時掲載された7編の短編小説集。
今から20年ほど前だから、50代後半、60歳になるかならぬかの脂の乗りきったころの作品だ。
いずれのテーマも言葉、言語。言葉を遊ぶというか、ちょっと言葉の冒険もしている。

「括弧の恋」は、キーボード上の“「”と“」”のカギ括弧同士が恋に落ちる話。ほかにもいろんな記号が出てきて、!はそれらしく、●も●らしく、それぞれの性格づけに納得させられる。

「耳鳴り」は、耳鳴りに悩まされるミュージシャンの話。医者がもっともらしい診断法で診察し、「30の自覚的表現」には思わず吹き出す。

「五十年ぶり」は、方言に人生を捧げた方言学者が、戦時中、自分をいじめた元特高刑事を方言をヒントに発見し、トイレで仕返しする話。ここでは言葉は武器になっている。

「見るな」はホントかどうか、東北の「船越」という地域の方言がジャワやスマトラインドネシア語、マレー語と類似していて、「ここの住民の先祖は南方から黒潮に導かれてやってきた」との説にまつわる話。そういう説が本当にあるかどうか知らないが、読み進むうちに妙に納得して、最後にうっちゃりを食わされる。

「言語生涯」は、「大便ながらくお待たせしました」と、ある日突然舌がもつれる青年駅員の悲哀を描いた作品。『季刊言語治療のあゆみ』という雑誌に掲載された、高柳源太郎という言語病理学(そんな学問あるのか)の学者がK総合病院附属高等看護学院で行った講演の速記録を転載したという形で描かれている。

どれもギャグ満載で、アッという間に読み終えた。