善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

ワルン・ロティのパン

土曜日は散歩も兼ねて目黒区にある「ワルン・ロティ」というパン屋さんにパンを買いに行く。
帰りに恵比寿で途中下車して、東京都写真美術館で「古屋誠一メモワール」と「ジャンルー・シーフ写真展」をハシゴ。

目黒から東急目黒線に乗り換えて、洗足駅下車。7~8分ほど歩いた住宅街の一角にあるパン屋さんが「ワルン・ロティ」。店名はインドネシア語に由来し、「ワルン」は「屋台のような、小さな店」を意味し、「ロティ」は「パン」。
自宅を改造してできた店はパン工房も兼用していて、小さなスペースにオーブンがドーンと置いてあって、パンとはまさに「焼くこと」なのだと実感させてくれる。

忙しく立ち働いているのはオーナーであり、パン職人であり、売り子でもある大和田聡子(としこ)さん。夫も子どももいる専業主婦からパンづくりにめざめ、とうとうたった1人でパン屋を始めた。

それには理由がある。今は亡き父親は小麦の育種を専門とする研究者で、岩手にあった東北農業試験場で日本人にあったパンをつくろうと原料となる小麦の研究に没頭し、開発したのが「ハチマンコムギ」「コユキコムギ」などの品種。しかし、いつしか「ハチマンコムギ」は幻となり、「コユキコムギ」も、もはやわずかしか生産されていないうえ、南部センベイとかスパゲッティの原料でしかなくなっていた。

コユキコムギでおいしいパンをつくろう、と決意し、レシピもない中で、試行錯誤を繰り返しながらパンづくりに挑んだ。そして始めたのが、コユキコムギの粉と天然酵母でつくるパンの店。見よう見まねでパンづくりに挑戦し始めたのが1995年ごろ、「ワルン・ロティ」のオープンは2003年。その間、8年もの歳月が流れていた。

何しろ、主婦も兼ねながら1人で切り盛りしているので、店を開くのは金・土・日の3日間だけ。10時にオープンして、売り切れたらおしまいで、だいたいお昼すぎぐらいには店を閉じてしまうという。なんとか12時前に店について、何種類かのパンを購入。夕食の友にすることにする。

「ワルン・ロティ」でパンを買って、洗足駅に戻るとちょうど時分どき。駅の近くに「そば由々 森もと」とかいうちょっと小粋なのれんを下げたそば屋があったので入る。店内はしゃれた喫茶店を改造したという感じ。そばは細めでおいしかった(2段重ねで量もあって、値段も比較的リーズナブル)。お酒は獺祭、久保田などがあり、獺祭を頼む。つまみも豊富。しかし、なぜか落ち着かない雰囲気。喫茶店みたいな内装が落ち着かなくさせるのか。味はよかったけど感動はなかった。

東京都写真美術館では「古屋誠一メモワール」と「ジャンルー・シーフ写真展」。
古屋誠一の写真は、どれもが悲しい。ただ自然を撮ったものにも悲しみがあふれている。
一方、ジャンルー・シーフは華やか。有名人のポートレートとか、広告写真を撮っているのだから当然だが、すべてモノクロ写真。シーフ(故人)はかつてマグナム写真家集団に所属してルポルタージュを撮っていたというだけあって、単なる広告写真ではなく1作1作にドラマがある。

私が気に入ったのは、海辺のホテル(かマンションか)のバルコニーから投げ出された足の先の靴の広告写真。

モノクロ写真は、撮影と暗室(プリント)との共同作業だ。シーフの作品のプリントを担当しているのはイヴ・ブレガンという人で、シーフやセバスチャン・サルガドを含めて3人の作品以外は焼かないと自負している名プリンターだという。
そういえば以前、東松照明の写真展に行ったとき、プリントを担当したのは奥さんと知って感動したことがある。

で、夕食どき。酒のつまみに「ワルン・ロティ」のパンをかじる。モッチリとしたかみ応えのある食感。岩手の風土がそうさせたのか、コユキコムギは保水性にすぐれていて、モチモチ感が強いのだとか。肉を焼いたオリーブオイルのソースにつけて食べると、とびきりの味。いろんな料理と一緒に食べると、料理もパンも引き立つようだった。

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