善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+『鴛鴦歌合戦』

フランスの赤ワイン「シャトー・デ・ゼサール・ルージュ2012」。
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飲む前にあらためてラベルを見て、ハテどこかで見たような、と思ったら先日飲んだのと同じワインだった。ほどよい酸味と渋みで、飲みやすい。うまけりゃ何度飲んでもいい。
ブドウ品種はメルロ(70%)、カベルネ・フラン(30%)。産地はフランス南西地方(ボルドーの東側からスペインとの国境、ピレネー山脈の麓に至る地域を指す)。
それにしても、このところ円安が進んでいるからかけっこういい値段(消費税も8%だし)。

ワイン飲みながら観たのは、昼間NHKBSでやっていた『鴛鴦(おしどり)歌合戦』という日本映画。
これがノーテンキでおもしろかった。

1939年(昭和14年)製作のミュージカルというかオペレッタ時代劇で、日活京都撮影所製作。今から76年も前の白黒トーキー。
ちゃんと修復したためだろう、画面は鮮明で、雨も降ってない。
監督はマキノ正博(のちのマキノ雅弘)、撮影は宮川一夫
出演は片岡千恵蔵市川春代志村喬服部富子ディック・ミネ、ほか。

話自体は他愛ない。
木刀かなんかを削る内職をしながら気ままに暮らしている浪人(片岡千恵蔵)をめぐる3人の娘の恋のさや当て。
1人は、骨董狂いの貧乏浪人で、片岡の隣に住む志村喬の娘(市川春代)、1人は金持ち商人の娘(服部富子)、そして古い許嫁の娘(深水藤子)。
これに志村喬の娘に一目惚れした殿様(ディック・ミネ)とその家来、志村に偽物を売りつける骨董商、街の若い衆なんかが絡んでドタバタ劇となる(結局は片岡と志村の娘が結ばれてハッピーエンド)のだが、76年も前だからとにかくみんな若い。

このとき、監督のマキノ正博は31歳、カメラマンの宮川一夫も31歳。
主役の片岡千恵蔵36歳、志村喬34歳、ディック・ミネ31歳。とにかくみんな若いのだ。

撮影がのちの巨匠・宮川一夫とわかって、画面の作り方もじっくり見たが、ローアングルで撮ったり、奥行きを出すため殿様の家来を斜めに1列に座らせたり、工夫のあとがみられ、監督・カメラマンの若さが充満している映画だった。

びっくりしたのは、あの重厚な演技で知られる志村喬が陽気に明るく歌っている。しかも、歌がうまい!
風貌はすでに戦後の『七人の侍』の老剣士とあまり変わらないが、声の若々しいこと。
やはり黒沢明監督の『生きる』でも志村は歌っているが、あれはブランコに乗りながらさみしげに歌う『ゴンドラの唄』だった。
しかし今回は明るくのびのびと歌っていた。事実、ディック・ミネはこのときの志村の歌を聞いて真剣に歌手デビューを誘ったそうである。

しかも、この映画のテーマは、権力(殿様)や親に服従するのでなく、自由と権利を主張して自分らしく生きる、である。
この映画が製作された1939年とは、すでに2年前に日中戦争が始まり、ヨーロッパでは第2次世界大戦が勃発して軍国主義化に拍車がかかり、基本的人権も何もが束縛されるようになっていたころ。よくもあんな映画が認められたと思うが、同時に、映画人たちの自由を求める気概が感じられる作品だった。