善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

国立劇場 夢市男達競

正月も最後の6日は、国立劇場の平成25年初春歌舞伎『夢市男達競(ゆめのいちおとこだてくらべ)』を観に行く。

河竹黙阿弥の『櫓太鼓鳴音吉原』を黙阿弥没後120年に合わせて再構成した復活通し狂言
去年は正月休みに富山に旅行したので歌舞伎はパス。おととしの正月に国立劇場に初春歌舞伎公演を観に行ったが、このときの『四天王御江戸鏑』も200年ぶりとかいう復活狂言だった。正月の国立劇場は復活狂言が恒例なのだろう。型の決まった十八番ものと違って、台本・演出ともに新しく工夫しなくてはいけないから、実験的な要素もあり、かえって興味をそそられる。
出演は2年前と同じ尾上菊五郎中村時蔵尾上菊之助尾上松緑、その他。

正月らしく劇場は初春気分。
着物姿の人も多く、若い女性の姿が目立つ。正月休みだからか、菊之助人気ゆえか?

ロビーでは獅子舞が行われ、「あけましておめでとう」。
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初代横綱明石志賀之助が登場するというので、国立劇場ゆるキャラ・黒子ちゃんと、日本相撲協会ゆるキャラが並んでいた。
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ロビー上には大きな凧も。
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今回の舞台は、時代を鎌倉時代、それも頼朝の時代に設定しているが、話は完全に江戸時代。当時の人々にはおなじみの、いくつかのエピソードがない交ぜになり、ひとつの物語になる、歌舞伎ならではの劇づくり。

1つは、初代横綱とされる名力士・明石志賀之助(ナント身長2m20㎝、体重220㎞もあったんだとか)が、ライバルの仁王仁太夫を破って「日の下開山」の称号を与えられるエピソード。
それに明石の義理の兄である俠客・夢の市郎兵衛と仁王側との達引(意地を張り合う、義理を立てる)。
吾妻鏡』に載っているという、源頼朝西行法師に「白銀の猫」像を与えたところ、西行はもらった猫像を道端で遊んでいる子どもに与えて去っていったという話。
さらには曲亭馬琴が創作した「頼豪阿闍梨怪鼠伝説」(平安時代天皇を恐れさせた頼豪という僧侶の怨霊から、鼠の妖術を譲られた木曽義仲の遺児・清水冠者義高が頼朝の鎌倉幕府を倒そうと画策する話)。

そればかりでなく江戸吉原にいた花魁の薄雲の愛猫にまつわる怪談(薄雲が可愛がっていた猫がおかしな行動をするので、置屋の主人がその猫を切り殺したところ、実は猫のおかしな行動は薄雲を守るためだったと分かり、ねんごろに供養したという話。これを聞いた贔屓の客が伽羅の木で作った猫の彫刻を薄雲にプレゼントし、これが「招き猫」の始まりといわれるんだとか。ホントかどうか)

とにかくまーいろんな話をゴタまぜにしたものだが、観てみると、なるほど筋は通っている。

出色は菊之助の明石。先月は『籠釣瓶』で目の覚めるような花魁姿を見せたかと思ったら、今度は相撲取り。本人も、肉襦袢を着るのは初めて、と芝居のパンフレットに書いていて、ハテどうなるんだろうと思ったが、なかなかカッコいい力士姿だった。
歌舞伎に出てくる力士は、高頬(ほっぺたの上のほう)にほくろがあるのが特徴なんだそうで、菊之助もちゃんとつけていた。

きわめつけは終幕近く、猫の化身の菊之助(相撲取りの明石志賀之助と猫の化身である新造胡蝶の2役)と鼠四天(ねずみよてん)との大立ち回り。

四天というのは主役と戦う大勢の敵の呼び名で、普通は捕手のことが多い。手に十手やときには桜の枝を持ったりして、トンボを切ったりするが、この日は鼠の格好。
これが実におもしろい。マジックショーになったり、鼠だけにミッキーマウスクラブのドラム合戦になったり、かなり現代風にアレンジしていて、客席を沸かせる。

最後には、市郎兵衛が猫像から発するレーザー光線で鼠の怨霊をやっつけて大団円。

そういう意味で、とても楽しい初春の舞台であった。

[観劇データ]
2013年1月6日 12時開演
夢市男達競
1階6列22番