善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

放射線で死なないためには

木曜日朝の善福寺公園は雲が厚い。おかげで涼しい。

公園について歩き始めたら雨がシトシト。傘を持ってきてよかった。
上池のフヨウの花が数を増している。
きょうはラジオ体操はやらずに帰る。

たまたま手近にあった辺境生物学者の長沼毅氏と作家の藤崎慎吾氏の対談集『辺境生物探訪記 生命の本質を求めて』(光文社新書)を斜め読みする。
対談の主役は長沼氏。辺境とは、火山や深海、極地など生物が棲みにくい場所だが、そこは誕生間近の地球に近く、そこに棲む生物を研究することで生命の起源に迫るのが辺境生物学。

その辺境たるやすごい。南極や北極などの極地、深海底、火山、砂漠、地底、宇宙空間…。低温、高温、高圧、乾燥、無酸素、高放射能など、どんな過酷な環境にも生命は存在しているようで、地球の“極限環境”に生きる奇想天外な生物たちをめぐる話が面白い。

本書は新書といいながら400ページもあり、しかも途中、ちっちゃい字で2段組にしたコラムも随所にあって、読みごたえは十分。興味深い話はいろいろあったが、時節柄、やはりドキリとさせられたのは放射線と生命との関係だ。(もちろんこの本は大震災のずっと前の昨年7月に刊行)

長沼氏によれば「放射線は生命にとって最大の脅威」であり、「これにかなう生命は、なかなかない」という。

放射線を浴びると人間はどうなるか。原子と原子がぶつかって細胞を物理的に壊される可能性は小さく、むしろ多いのは放射線が人の体を通ったあとに、たとえば水の分子がフリーラジカルになることだという。
放射線は自分が通ったあとにいろんなものをイオン化することができる。しかもただのイオンではなく、フリーラジカル、つまり非常に活性化したイオンになる。このイオン、特にプラスのイオンは何かに触れるとたちどころに相手を酸化してしまう。
そういったイオンを大量につくるのが放射線の粒子であり、それによって生命の細胞を破壊してしまう。あるいは、中に入っているDNAの二重らせんを切るなどのダメージを与える。

どうしてそうなるかといえば、人間の体は水でできているからだ(正しくいえば人間の体の6割は水分)。そのため、放射線が飛んできたら体内の水はラジカルになって、生命を傷つけてしまう。何と水分とは、人間にとって生きるために必要なものであるものの、逆に生命を傷つけるものなのだという。(そういえば酸素だって、生きる上で不可欠だがフリーラジカルになると細胞を傷つけ、万病の元になるという)

ところが、放射線を浴びても死なない生物がいる。それは乾燥させた微生物だ。実際、その実験が行われていて、微生物を乾燥させて、そこに放射線をあてて、あとで水を戻してあげたところ、かなりの数が死ななかったという。
だから、人間も、水とDNAを抜いてしまえば、放射線で死ぬことはない。(ほかの要因では即死だろうが)

ああ、何と恐ろしい放射線。宇宙には放射線が飛びかっている。しかも人間の致死量を超えるような強力な放射線だ。だが幸いなことに、地球には厚さ約100㎞以上の大気があって、それで放射線や紫外線などから守られている。さらに上層には「ヴァン・アレン帯」という、やはり宇宙放射線から地球を守ってくれる層があって、人類は無事でいられる。
つまり、宇宙から飛んでくる放射線も、地球を包むバリアに守られているからこそ私たちは安全なのだ。

だが、バリアのない地上で、放射線が人工的につくられ、ばらまかれたとしたら、いったい何が人間を守ってくれるのか。その答えはない。
それとも微生物のように、水分を抜いて乾燥させて、放射線の影響が残らなくなるまで、冬眠でもするしかないのだろうか。