善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

プラハ・ウィーンある記 3

3日目(9月25日)はプラハから電車で1時間50分ほど西にあるプルゼニュという町へ。

なぜこの町に行く気になったかというと、ビール消費量世界一(国民1人あたり)のチェコ(意外なことにドイツではなく、ドイツは第3位)にあって、ここがピルスナービール発祥の地だからだ。酒好き、ビール好きのわれわれ2人としては、行かねばならぬ妙心ドノ、なのである。

私たち日本人が、だけでなく世界のビール好きが飲んでいるビールといえば、あの苦味に爽快感のあるノド越し、白い泡、黄金色のビール。このようなビールのスタイルを総称して「ピルスナー」と呼ぶ。そのピルスナービールの生誕地がチェコプルゼニュ(英語名ピルゼン)。いわばビールのふるさとなのだ。
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そもそもワインの始まりが、果物のジュースを搾って飲んでいるうちに、自然の酵母によってたまたまアルコール発酵して酒になったのと同様、ビールは、農業にいそしんでいたメソポタミアの民が、麦を用いてパンをつくっていたところ、水に濡れた麦粒が発芽してしまい、これでつくったパンを水に浸して放置してたら泡が出てきて、飲んでみたらほろ酔い加減になって「これはうまい」となったのが始まりとかで、それが今から5000年ほど前の話。(エジプトがビールの発祥地との説もあるが、本格生産が行われたハシリがエジプトということだろう)
以後、麦などの穀類、ホップを原料につくる酒がビールとなった。

ビールづくりに用いる酵母には上面・下面の酵母があり、上面酵母がやや高めの温度で発酵するのに対して、低温で時間をかけてアルコール発酵するのが下面酵母。こちらのほうが発酵しやすいという利点もあって、15世紀になってドイツのバイエルン市当局は次のお触れを出した
「ビールは大麦、ホップ、水を用いて、下面酵母醸造しなければならない」

こうして、もっぱら下面酵母を用いて、低温で主発酵させたあと、さらに温度を低くして後発酵させて、残存エキス分を十分発酵させた、現在のラガービール(「ラガー」は「貯蔵」の意味)が誕生する。

ドイツの隣国チェコでもビールがつくられていたが、19世紀中ごろにプルゼニュ市で「市民ビール醸造所」というのが設立され、「うちでもラガービールをつくろう」というのでドイツから技師を招き、下面酵母を用いたバイエルンの技術に学んだビールづくりがはじまった。

ところが、ドイツでつくられるのは茶色いラガービールだったが、プルゼニュでつくられるのは澄んだ琥珀色、黄金色のビールとなった。その秘密は1つはここでとれる高品質のホップにあり、もう1つは水にあって、プルゼニュの水はヨーロッパでは珍しく軟水なので、それがラガー酵母とぴったりと相性が合い、さわやかな黄金色のビールを生んだのだという。それまで黒っぽいビールしか知らなかった人々にとって、突然誕生した光り輝くような黄金色のビールは驚き以外なかっただろう。

以後、プルゼニュでつくられるビールは「プルゼニュスキー」、ドイツ語で「ピルスナー」と呼ばれて一気に有名となる。
いまだに、ビール自慢では負けないドイツ人も、チェコピルスナーの話をすると黙り込んでしまうという。

それほどチェコのビールは他国を凌駕するもので、アメリカの「バドワイザー」の名称は、チェコの「チェスケー・ブジェヨヴィツェ」という町のドイツ語読みの「ベーミッシュ・ブトヴァイス」のうち「ブトヴァイス」を英語で読み替えたもので、チェコピルスナービールの威力のほどがわかる。

9時10分発のエクスプレス「フランツ・カフカ」号に乗って一路、プルゼニュをめざす。切符を買うとき、窓口のおねえさん(チェコでは女性がかなり働いている)は何もいわずに自由席のチケットを売ってくれたが、たしかに正解で、予約席もあったが日曜日というのに自由席はガラガラ。チェコの列車はコンパートメント式になっていて、1つのコンパートメントに8人座れるが、発車するころはわれわれ2人だけで、途中もう2人が入ってきただけだった。

プラハを出ると窓の外には田園風景が広がる。濃い霧が立ち込めて何となくロマンチック。朝は比較的冷え込んで、日中あったかいのが今のチェコの気候。その温度差がモヤを生じさせているのだろうか。

プルゼニュ着が11時ごろ。歩いて旧市街の中心部に向かう。広場を見下ろすように聖バルトロミェイ教会があり、この教会は1320年から1470年にかけて150年の歳月をかけて建てられたという。ゴシック様式の建物で、尖塔の高さは103m。チェコで最も高い塔だという。
せっかくだからとのぼっていく。尖塔からのながめはさすがにすばらしい。

ここから歩いてすぐのところにあるのが1842年に開業したプルゼニュスキー・プラズドロイ(ドイツ名でピルスナーウルクェル)醸造所。
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12時45分から工場見学ツアーがあるというので参加する。(ツアー料金150コルナ、撮影するならさらに100コルナ追加。しかしわれわれ日本人は律儀に撮影料を払っていたが、ほかの連中はカネも払わずパチパチ撮っていた)
写真は地下にあるビールの樽の貯蔵庫。ひんやりして涼しい。自然の冷蔵庫だ。
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ここでのお目当ては、ツアーの最後に地下にあるかつてのビール貯蔵庫で試飲させてもらえる「昔ながらのやり方でつくった出来立て蔵出しビール」。おじさんが樽のコックをひねって1杯1杯ついでくれるが、これが感動的なおいしさ。さわやかなコクと苦みで、飲んだあともう一度ビールの美味さが甦ってくる感じ。生涯最高のビールの味を堪能した。
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ランチは工場直営のレストランで。ここのビールもおいしくてお代わりしてしまう。しかも安い!
500㎖ぐらいのジョッキで34コルナ。日本円にして150円ほど。
ということは店で売っている小売り価格ではもっと安いだろう。日本で500㎖のビールというと小売り価格でも200円以上。飲み屋で1杯注文すれば400円、500円する。それが半分どころか3分の1以下の値段だ。

そもそも日本は酒税が高い。あるデータによると、小売価格に占める税負担の割合は、チェコのデータはないが日本が50%近いのに対してドイツ17・5%、アメリカ14%。世界一のビール税が日本なのだ。
「日本は消費税が低すぎる」とかいうけれど、単純にそうはいいきれないのだ。

帰りは16時10分発の急行列車に乗り、プラハ着は18時ごろ。この日の交通費はプラハプルゼニュ往復1人210コルナ。

前日見逃した天文時計が時を告げるのを見て、夕食は「Kogo」というイタリアンの店。Slovansky Dumというシネマコンプレックスみたいな複合ビルの中庭にあるおしゃれな店。手打ちパスタのボンゴレと、ドーハでとれたヒラメのレモン風味マッシュポテト添え。それに白ワイン。