善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

「ホンマタカシ」と「李禹煥」と「蕎麦屋ふじ多」

日曜日は初台にある東京オペラシティへ。

新国立劇場の芝居は何度か見に行ったことがあるが、そこにアートギャラリーもあるとは知らなかった。
写真家のホンマタカシの展覧会、「ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー」を見に行く。
何とも不思議な展覧会だった。
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「ニュー・ドキュメンタリー」とは、「カメラという装置で被写体をとらえる写真を通し、現実、記憶、そして世界とどのように向き合うことができるのか」というテーマをもとにホンマが名づけたという。
ドキュメンタリー写真=リアリズム写真と信じ続けてきた者にとって、ホンマの写真はたしかに「新しいドキュメンターの発見」といえる。

たとえば「Tokyo and My Daughter」(1999-2010年)シリーズ。
10年間に及ぶ写真記録。「私の娘」とあるから、ホンマ自身が娘の成長を記録した家族アルバムかと思わせる。しかし、実際は写っている女の子はホンマの子じゃないし、さらにホンマが撮ったのではない写真の複写もまじっているという。

また、「Trails」(2010-2011年)シリーズでは、「知床の鹿狩りにまつわる場面を取材した」というが、真っ白な雪の上に飛び散っているのは血なのか、ただの絵の具なのか。猟師も、鹿も登場しない不思議なドキュメンタリー。そこには「真実とは何か」というドキュメンタリーがめざすものをあえてあいまいにしている。

技術の向上によって、シャッターを押しさえすればだれでも美しい(と錯覚してしまう)写真を撮れるようになったし、いくらでも加工が可能になって、ホントとウソの境界が不鮮明になっている。
私たちが見ているドキュメンターの「虚構」を作者は訴えているのだろうか。

同じアートギャラリーで収蔵品展が開かれていて、そちらも見る。
李禹煥(リー・ウファン)と韓国の作家たち」

特に李禹煥の作品。これまで「日本人の心」が持つ特有な感覚と思っていたワビとかサビみたいなものを強く感じる。
「線より」という作品は、一瞬見て尾形光琳の「燕子花図屏風」を連想した。
考えてみれば、日本の美の源流にあるのは朝鮮半島の美なのだから、表現の形だけでなく美の心にも共通するものがあるのは当然なのかもしれない。

李禹煥は「点」の作品も描いているが、先日2泊3日でソウルに行ったとき、彼の作品と出会っていたことを思い出した。
インサドンを歩いていて偶然見つけた陶芸家・朴英淑の白磁に感動したが、その朴英淑の磁器に李禹煥が絵付けした皿があった。絵付けといっても白磁にワンポイントの青い「点」をチョンと入れたものだったが。
だから余計に高かったのかな、と、再び値段を思い出す。

展覧会の帰りに、界隈を少し散歩して、「蕎麦屋ふじ多」という店でお昼。
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入口はごく質素で、のれんなのだろうが、白い布切れのようなものが下がっているだけ。
店の中は白い漆喰の壁に、デーンと巨大な一枚板のテーブル。それを囲むようにして8人も座ればいっぱいの感じ。

まずはビールと、つまみに「米ナスの柚子味噌焼き」(650円)と「鶏の山椒焼き」(750円)を頼む。客はほかに2組ぐらいしかいないのだが、料理がなかなか出てこない。サービスのつきだし(冷や奴)でビールを飲むが、この奴豆腐がうまい。というか仕事をしている。ただ豆腐を切って出すだけでなく、しっかり水切りして塩をパラリと振ってある。ビールに合う。

やがて米ナスが出てくるが、大きい。しかも半分に割ったのが2つ出てきて、これで1人前という。たべてびっくり。ちょいと濃い味だが、これがうまい。ビールより酒が呑みたくなる味で、日本酒を頼む。この日飲んだのは新潟の「鶴齢」(750円)と岐阜の「房島屋」(700円)。夕方飲み会があるので昼間は軽くと思っていたのだが、つい……。
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続いて出てきた鶏の山椒焼きもいろんな野菜と蒸し焼きにしたもので、タジン風か。これもシンプルな味で山椒が効いている。
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〆はもりそば(750円)。
シャッシャッという水切りの音が聞こえてきて、ザルに盛ったそばが運ばれてくる。いいなーこの感じ。味もよし。
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給仕してくれる女性(オバサン)は客より自分の都合を優先する感じだが、不思議と好感が持てる。彼女は身勝手ゆえにワガママなのではなく、それがお客のためになるからそうやっているのであって、結果としてうまくおさまる。人柄もあるのだろう。誠意のこもらない丁寧さ(慇懃無礼)より、誠意のこもったぞんざいさこそが、接客の極意なのかもしれない。

帰りはいい気持ちになって幡ヶ谷まで歩く。
また行きたくなる店。

蕎麦家 ふじ多
東京都渋谷区本町6-28-9
03-3320-4863
12;00~14:30 / 17:30~20:30
金・土・日・月曜営業
禁煙