善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

安倍政治と二重写しとなる「ペンタゴン・ペーパーズ」

TOHOシネマズ新宿で「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」を観る。
以前は大泉学園にあるTジョイ大泉によく行ったが、最近はTOHOシネマズ新宿をヒイキにしている。西武新宿駅の目と鼻の先にあるのと、座席がゆったりしていて見やすいからだ。


ベトナム戦争当時のニクソン政権下で、アメリカ政府がひた隠しにしていたトップシークレットの文書の特ダネ報道をめぐる新聞社と当時のニクソン政権のバトル、さらには新聞社内部での駆け引き、女性社主の逡巡と決断の物語。
メリル・ストリープが苦悩する社主を好演して物語に深みを出していて、期待していた以上に面白かった。
さらに、ちょうど日本でも「文書」をめぐる安倍政権の“捏造政治”が大問題になっている。権力におもねることなく、特ダネを連発して新事実を次々暴露しているのが朝日新聞(マスコミの中ではNHKの社会部もがんばっているが政権ベッタリの報道局トップのせいでまったく目立たない)。
このところ毎朝、きょうはどんなニュースが載っているか、新聞を開くのが楽しみになっている(こんなこと久しくなかった)。 

その朝日新聞を根っから嫌っているのが安倍首相。
「安倍が潰れるか、朝日が潰れるか」の見方まであるほどだが、正義を貫こうとするワシントン・ポスト紙を描いたこの作品、孤軍奮闘する朝日への応援歌のようでもあった。

登場人物がすべて実名で出てくるが、いいセリフがいくつもあった。
たとえば、ケネディ、ジョンソン政権下で国防長官をつとめていたロバート・マクナマラ(ホンモノそっくり)が友人であるワシントン・ポストの社主、ケイことキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)にこうアドバイスする。
ニクソンはジョンソンより悪い。あいつは汚い。クソだ。自分に批判的な新聞をつぶそうとしている。彼は大統領権限を最大限に行使するだろう、そして君を葬り去る方法を絶対に見つけ出すぞ」
このセリフを聞いてニクソンのかわりに日本の某首相の顔が脳裏をかすめた。

ワシントン・ポストの編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)のセリフ。
報道の自由とは、報道することだ」

ケイの亡き夫の言葉。
「新聞の報道は歴史の草稿だ」

そしてケイはいう。
「新聞社がなければ、国民にウソをついてきた政府に責任を負わせることができないわ」

何しろ50年も前の物語。当時、新聞は活版印刷だった。
映画では、活版による新聞づくりが実に丁寧に描写されていた。
輪転機が回る印刷所の中をケイとベンが歩いている。その上を印刷されたばかりの新聞が高速のベルトコンベヤーで運ばれていく。報道の自由謳歌する美しいシーンだった。

映画では物語の発端の部分でチョコッとしか出てないが、そもそも「ペンタゴン・ペーパーズ」を新聞社にリークしたのがダニエル・エルズバーグという人物だ。
彼は国防総省にいたことがあり、「ペンタゴン・ペーパーズ」の執筆にもかかわった。

ペンタゴン・ペーパーズ」の正式名称は「ベトナムにおける政策決定の歴史、1945年-1968年」といって、ニクソン政権下の1971年に作成されたが、ルーズベルト大統領時代のフランス植民地時代にはじまり、フランスの撤退以降にベトナム戦争を拡大させたケネディとジョンソン両大統領政権下のアメリカのインドシナ政策と「トンキン湾事件」などの当時の政府による秘密工作を網羅しているといわれる。

この文書は最高機密として15部だけ印刷されたという。エルズバーグは報告書の分析を託され、読み進めるうちに政府がウソの発表で国民をだまし続けていたことを知る。
そして、この戦争は間違った戦争であり、そのことを国民に知ってもらう必要がある、と決意する。彼が38歳のときだった。

こっそり報告書を持ち出したエルズバーグは反戦活動をしている友人らと手分けして、広告会社のコピー機を使って徹夜で複写。47巻7000ページにも及ぶ量であり、それを何部もつくったというが、そのシーンは映画でもあった。

映画の最後にウォーターゲート事件の発端部分が出ていた。
ペンタゴン・ペーパーズ」を見て、そのあとに「大統領の陰謀」(1976年の映画)を見るとよりおもしろいかもしれない。