善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

池上永一 ヒストリア

池上永一の「ヒストリア」(角川書店)を読む。

沖縄を舞台に描いた「テンペスト」以来のファンだが、今回も主人公は沖縄の女性。
第二次世界大戦の米軍の沖縄上陸作戦で家族すべてを失い、魂(マブイ)を落としてしまった知花煉(れん)。一時の成功を収めるも米軍のお尋ね者となり、ボリビアへと逃亡するが、移民たちに与えられた土地は未開拓で、伝染病で息絶える者もいた。
数々の試練を乗り越えて自分を取り戻そうとする煉。一方、マブイであるもう一人の煉はチェ・ゲバラに出会い恋に落ちてしまう……。
かなり理屈っぽいところもあったが、チェ・ゲバラが登場するなど奇想天外の物語。

ただ、腑に落ちない箇所もあった。それは次のくだり。

『タヤリン』というイタリアのピエモンテ州のパスタが、沖縄そばの麺にそっくりだと発見したのだ。
沖縄そばの麺が強力粉で打たれることはよく知られている。だが繋ぎに卵が入っていることを知る人は少ない。それが普通のパスタ麺では代用できない理由だ。パスタの方が淡白だからだ。ただしパスタ麺のなかでもタヤリンの麺は生地に卵を混ぜてあるので濃厚な味がする。これが沖縄そばの製法と偶然同じだった。麺も極太で沖縄に持っていっても九十九パーセントの人は気がつかないだろう。
それに戦後の沖縄では麺の製造が機械化されたため、ビニール袋に詰めて売られるようになった。そのときに麺がくっつかないようにラードを塗した。流通の都合のために塗されるラードのせいで、味が落ちたのだ。その点、乾麺にはそんな心配がない。

しかし、私が聞いた限りでは沖縄そばに卵は入っていない。
本来の沖縄そばの一番の特徴は、木を燃やして残った灰を水に溶かし沈殿物をのぞいた上澄みである灰汁(あく)を使っていることだ。小麦粉に灰汁を加えてよくこね合わせ、一定時間寝かせて発酵させ、麺棒で延ばして切り分ける。

それとも最近の沖縄そばは灰汁の入手が難しいので、卵を入れているのだろうか?

小麦粉だけではいくら固めようとしてもボロボロになるので、つなぎとして考えられたのがアルカリ性の液体である灰汁だった。元々の作り方は中国から来ていて、中国では小麦粉に鹹水(かんすい)を加えて麺をつくる。鹹水には灰汁同様、アルカリ成分が含まれていて、これが小麦粉のタンパク質(グルテン)を変化させて独特のコシと味を作り出す。また中国でも灰汁を使っている地域があり、それが甘粛省の蘭州だ。
だから沖縄そばのふるさとは蘭州との説もある。

また、沖縄そば製麺後にいったんゆでたあと油が加えられるのは、機械化のためでおかげで味も落ちた、ということはない。もともとは保存のために油を塗ったのかもしれないが、それによってむしろゆでた直後より風味が増し、シコシコ・モチモチになった。
つまり、少しでも保存性をよくしようとしたところ味までよくなった、というわけで、今はあえて油を塗る行程を加えているという。

こんな事を書いていたら、沖縄に行って沖縄そばが食べたくなった。
一番食べたいのは「首里そば」だが、今も昔のままの味だろうか?