善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

菊之助の大蔵卿

日曜日は国立劇場で歌舞伎鑑賞教室「鬼一法眼三略巻 一條大蔵譚(きいちほうげんさんりゃくのまき いちじょうおおくらものがたり)」を観る。

毎年7月にやっている若い人向けを意識した公演で、1等席でも3900円と比較的安いのが魅力(学生は全席1300円)。
しかしきのうは休日とあって満員の席には中高生もチラホラいたが、圧倒的多くはオバサマたち。菊之助見たさか。

鑑賞教室とあって、まずは解説で、「歌舞伎のみかた」を坂東亀蔵が実演を交えながら解説。
これがなかなかわかりやすかった。
とくに、いつもは見られない黒御簾の中をみせてもらった。
前面の覆いをとると中が丸見えとなり、前列に三味線が3人、後列に歌い手が3人、さらにその後ろに太鼓や笛など。かなり狭いところで演奏しているのがわかった。

休憩のあとは「鬼一法眼三略巻 一條大蔵譚 二幕」。檜垣茶屋の場と大蔵館奥殿の場。
出演は一条大蔵卿長成・尾上菊之助常盤御前中村梅枝、吉岡鬼三郎・坂東彦三郎、女房お京・尾上右近、八剣勘解由・尾上菊市郎ほか。

この演目は、一條大蔵卿といえば吉右衛門で、何年か前にやはり国立劇場で見ているが、今回は吉右衛門を義父に持つ菊之助がこの役に挑戦した。
きっと吉右衛門から熱心な演技指導を受けたのだろう、なかなかの熱演だった。
ことに「つくり阿呆」で滑稽さに徹していたかと思うと、キッと素に戻ってカッコよくなったりと、そのコントラストが楽しいのだが、大蔵卿の阿呆ぶりをどう出すか吉右衛門に相談したら、「子どものしぐさを観察してごらん」とアドバイスされ、3歳の自分の息子の無邪気な様子を参考にしたという。
その無邪気さがうまく演技に出ていたし、キリッと素に戻ったところで衣装がめくれる「ぶっかえり」の場面はほれぼれするカッコよさ。円熟した吉右衛門とは別の味わいがあった。
むろん吉右衛門と比べればまだ若すぎてその差は大きいが、大役に挑むその意気込みをほめたい。

見ていていつもおもしろいと思うのは、芝居の最後に、討ち取った悪者の首(「死んでも褒美のカネがほしい」と強欲を貫いた家来の勘解由の首)をポンポンと宙に投げてもてあそぶところ。
チャプリンは映画「独裁者」で独裁者ヒンケルが地球儀のバルーンをもてあそぶ場面で独裁者の“狂気”をブラックユーモアで描いたが、大蔵卿が悪者の首をもてあそぶ場面も、どこか世の中を皮肉っている感じがした。