善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

ノンストップパフォーマンス ぜんぷくトリヲ

土曜日の午後、JR西荻窪駅南口から歩いて5分ほどのところにある「ことビル」2階の西荻シネマ準備室で、パントマイムの2人組「ぜんぷくトリヲ」の劇「いのちのオンパレード・大酒飲み」を観る。

ことビルの「こと」とは「琴」ではなく「事」。道路拡幅や再開発の問題など西荻のいろんなことを考える有志による「西荻のこと研究所」が発足。そのメンバー有志が管理運営しているビルの名が「ことビル」。そのビルの2階にある西荻シネマ準備室は、西荻窪からなくなって久しい映画館を復活させようと活動中の人たちが集まるスペースだが、ふだんは多目的スペースとして貸し出していて、そこでの「ぜんぷくトリヲ」の公演。

「ぜんぷくトリヲ」は12年前に結成されたユニットで、当初はパントマイミスト3人でスタート。善福寺公園でよく稽古したりしていたので「ぜんぷくトリヲ」と名づけ、その後、1人が抜けて、鈴木秀城と橋本フサヨの2人になったが、名前は「トリヲ」のままで活動を続けている。

 

ぜんぷくトリヲが3人でスタートしたころから「いのちのオンパレード」と題するパントマイムをメインとする劇を観ていて、最初に観たのは2011年3月、西武新宿線西武柳沢駅前の喫茶店での公演だった。

その後も、毎年11月に善福寺公園で開催される国際野外アート展「トロールの森」での野外劇を観にいったりしていて、「いのちのオンパレード・大酒飲み」はたしか2020年11月の「トロールの森」での公演が初演だったと思う。

(写真は20年11月、善福寺公園での野外公演より)

公園内を動き回りながら、飛んだり跳ねたりの熱血演技で、能とパントマイムとコメディーを融合したような抱腹絶倒の作品だった。

今回は、コロナの問題なども取り込んでさらに内容をふくらませた改訂版のようで、上演時間も1時間10分。息もつかせないノンストップアクションの連続だった。

 

ナイジェリアの作家、エイモス・チュツラオーラ(1920-1997年)の小説「ヤシ酒飲み」に着想を得て、舞台を日本に置き換え、生と死、悲劇と喜劇、そして恐怖で織りなす冒険譚。

音楽は舞踏公演や演奏会を中心に国内外で活動中の邦楽囃子方の望月左喜十郎による生演奏。美術・面は数々の猫絵展、絵仕事で活躍中の絵師、長野亮之介。

 

原作の「ヤシ酒飲み」は1952年刊。死んでしまったヤシ酒造りの名人を探す大酒飲みの旅の物語。

10歳のころからヤシ酒を飲み始め、飲み続けて15年目、ヤシ酒造りの名人が死んでしまう。新規のヤシ酒造りを探すが、あの名人のような酒を造る者はいない。仕方なく“死者の町”にいる名人を探すことになるが、その途中、頭蓋骨だけの紳士とか、指から生まれた赤ん坊、すべてあべこべの世界に生きる怪物や町中のあらゆるものが赤い町など、行く手には奇々怪々な世界が待ち受けている。幾多の困難を乗り越え、ようやく念願のヤシ酒造りの名人と会えたのだが・・・、という話で、神話的想像力が豊かに息づくアフリカ文学の最高峰といわれている作品だ。

 

それを「ぜんぷくトリヲ」ふうにアレンジしたのだが、能の謡いが入ったり、パントマイムで笑わせたり、囃子方の望月左喜十郎が太鼓や鼓だけでなく、赤んぼの泣き声からカエルの鳴き声まで、3人の熱演に引き込まれた1時間10分だった。