曲は、ラフマニノフ/歌曲集 作品34 ―「ラザロのよみがえり」(下野竜也編)、「ヴォカリーズ」、グバイドゥーリナ/オッフェルトリウム、ドヴォルザーク/交響曲 第7番 ニ短調 作品70。指揮は下野竜也、ヴァイオリン独奏バイバ・スクリデ。
今年2023年はラフマニノフ生誕150周年。
華麗なピアノ曲の数々で知られるラフマニノフだが、「歌曲」の作曲家としても知られていて、80曲以上の歌曲作品を残しているという。
1912年に作曲し、その3年後に改訂したのが「ヴォカリーズ」(1915年作曲の説もある)。
有名な曲だが、よくもこんな美しい旋律を考え出せるものだと、ため息の出るような作品。
ただただうっとりと聴くばかりで、至福のひととき。
80曲を超える歌曲の中で、唯一、歌詞のない曲がこの「ヴォカリーズ」。
「どうしてこんなに美しい旋律なのに歌詞がないのか?」と聞かれたラフマニノフは、逆にこう聞き返したという。
「なぜ言葉が必要なんです?」
言葉にできない思いを歌にしたということなのだろうか。
一転してグバイドゥーリナの「オッフェルトリウム」は現代音楽。
彼女は1931年、旧ソ連内のタタール共和国に生まれ、モスクワで学んだのち、ソ連崩壊とともにドイツに移住。音楽活動を続けている。
あえて音楽としての味わいや面白みを否定するようなのが特徴の現代音楽の中で、ときに劇的で、人間的感情がほとばしっていて、最後は厳粛な雰囲気の中、“祈り”の中で静かに終わる曲だった。
使用する楽器の一覧を見たら、タムタム、トムトム、グイロといった、あまり馴染みのない打楽器系の楽器が使われていて、ムチなんてものあった。
ソリストをつとめたバイバ・スクリデは1981年ラトビアの首都リガ生まれのヴァイオリニスト。なかなかの難曲であるこの曲を見事に奏でていたが、2021年にグバイドゥーリナの90歳を祝してこの曲を演奏するなど、グバイドゥーリナの作品に取り組むエキスパートとして知られる人だったようだ。
休憩を挟んで、グバイドゥーリナの現代音楽のあとにドヴォルザークの「交響曲第7番」を聴くと、とても素朴に聴こえてきて、グバイドゥーリナのときの緊張感から解き放たれてホッとした気持ちになる。
音楽に癒されるとともに、交感神経と副交感神経が適度に刺激されて、何ともいえない快感を味わったコンサートだった。