最近観た映画でおもしろかった作品。
民放のBSで放送していたフランス・イギリス合作の映画「ガーンジー島の読書会の秘密」。
2018年の作品。
原題「THE GUERNSEY LITERARY AND POTATO PEEL PIE SOCIETY」
監督マイク・ニューウェル、出演リリー・ジェームズ、ミキール・ハースマン、グレン・パウエル、ジェシカ・ブラウン・フィンドレイほか。
第2次世界大戦直後のイギリスの島を舞台に、島を訪れた作家が魅了された読書会をめぐるミステリー。
第2次世界大戦中、イギリスで唯一ナチスドイツに占領されたチャンネル諸島の1つガーンジー島。そこに暮らす人々の支えとなっていたのが、島での読書会とその創設者であるエリザベス(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)という女性の存在だった。
1946年、ガーンジー島の読書会の会員であるドーシー(ミキール・ハースマン)と手紙を交わすようになったロンドンの作家ジュリエット(リリー・ジェームズ)は、読書会に関する記事を書こうと島を訪ねる。しかし、島にはエリザベスの姿はなかった。
読書会のメンバーと交流していく中で、ジュリエットは彼らが重大な秘密を隠していることに気づいてしまう・・・。
ガーンジー島を含むチャンネル諸島はイギリスとフランスの間のイギリス海峡にある島々で、イギリス王室直轄、つまりイギリス国王がイギリスの国外に所有している島。このため国王が君主なっているもののイギリス政府の主権は及ばず、独自の議会と政府を持っている。といっても主権国家ではなく、高度の自治権を保有していているだけで、外交及び国防に関してはイギリス政府に従っているという。
第2次大戦中の1940年から45年にかけて、チャンネル諸島はドイツ軍に占領された。チャンネル諸島はイギリス海峡にあるといってもほとんどフランスに近いところにあり、イギリスにとっての戦略的な価値は低いためナチスドイツの占領を容認したようだ。
ドイツ軍に占領されていたのは事実だが、映画で描かれた読書会はフィクションらしい。しかし、占領中、ドイツ軍に勇敢に立ち向かった人たちがいて、その人たちに着想を得て書かれた同名の小説を映画化したものという。
だが、フィクションだとしてもありうる話だと思った。
ドイツ軍の占領により、島は完全な孤立状態となっただろう。通信は断ち切られ、郵便だって届くわけがない。外部とはシャットダウンされたいわば“文化的な飢餓”の状態の中で、本を読み、語り合うことは人間として生きていく上での希望の灯になっに違いない。
原題は「THE GUERNSEY LITERARY AND POTATO PEEL PIE SOCIETY」という長いタイトル。
直訳すれば「ガーンジー 読書とポテトの皮でつくったパイの会」となるだろうか。
ポテトピールパイはガーンジー島に実際にあった料理。ドイツ占領下の島は監獄のような状況となり、そこでの暮らしは過酷で、イギリス本土からの物資の供給も枯渇したため限られた食材で何とか生き抜いていこうと考案されたのがポテトの皮でつくったパイだったという。
貧しい食事で飢えをしのいででも読書は続けようという、島民たちの心意気が伝わるような会の名前だ。
映画は、ナチスドイツの支配の中で気高く生きていく島の人々を描いているが、それ以上に描かれているのが、島で養豚業を営みながら読書を愛する実直で心優しい男に恋するロンドンからきた売れっ子女性作家の物語。
戦争を背景にした映画だが、心温まるラブストーリーとして楽しめた。
民放のBSで放送していたドイツ映画「ヒトラーに盗られたうさぎ」。
2019年の作品。
原題「ALS HITLER DAS ROSA KANINCHEN STAHL」
監督カロリーヌ・リンク、出演リーヴァ・クリマロフスキ、オリヴァー・マスッチ、カーラ・ジュリ、マルノス・ホーマン、ユストゥス・フォン・ドホナーニほか。
ヒトラーがドイツの首相となって始まる恐怖政治から逃れるため、故郷ベルリンを離れスイス・フランス・イギリスに亡命を続けるユダヤ人の家族が、貧困や差別などの困難を乗り越え家族の絆を深めていく姿を、9歳の少女アンナの目を通して描く愛と成長の物語。
アンナ役はスイス・チューリッヒ生まれの新人リーヴァ・クリマロフスキ。2008年生まれというから9歳のアンナとほとんど同年齢で、過酷な状況のなかでも懸命に生き、たくましく成長していく少女を瑞々しく演じた。
ナチに捕らえられたとか、特に事件が起こるわけではない。家族とときに衝突しながらも助け合いながらのつつましい暮らし、転校を繰り返しながらも友だちをつくっていく学校生活、遠く離れたベルリンで暮らす心やさしいユリウスおじさんとの交流。亡命生活の日々を淡々と描いているだけなんだが、その何気ない日常がなぜか胸にジワーッと迫ってくる。
戦争を直接描いているわけではないのに、戦争の非人間性、差別・弾圧の罪深さを、少女の無垢で清らかな目を通して告発している。その点は太平洋戦争下の広島のすずさんの日常を描いたアニメ映画「この世界の片隅に」(こうの史代原作・片淵須直監督)に似ている。
毎日の何気ない生活を、愛おしく、優しく描くことで、その対極にある悲惨な戦争を浮き彫りにするのが「ヒトラーに盗られたうさぎ」であり「この世界の片隅に」だった。
題名の「ヒトラーに盗られたうさぎ」は、最初のシーンに出てくる。
迫りくるナチスからの迫害を逃れるため、ドイツからスイスへと急きょ出国することになったアンナ。出国がばれないよう「持っていけるものは本2冊とおもちゃは1個」と母親から告げられ、彼女は真剣に悩む。
最近買ってもらったばかりのぬいぐるみか、小さいときに買ってもらいずっと一緒にすごしてきたピンク色のウサギか。
ついに置いていくことになったピンクのウサギのことを、彼女は忘れることができなかった。
原作はドイツの絵本作家ジュディス・カーの自伝的小説「ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ」(1971年)。映画と同じに9歳のときに家族とともにドイツを離れて亡命。その体験をもとに綴った作品だが、8歳になった自分の息子にナチス時代に受けた家族の苦難を伝えたいため、子ども向けにわかりやすく書いたという。
2019年5月、本作の完成を前に、体調が急変して95歳で亡くなったという。