東京・新宿のテアトル新宿で日本映画「ケイコ 目を澄ませて」を観る。
2022年の作品。
監督・脚本・三宅唱、出演・岸井ゆきの、三浦友和、仙道敦子、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、渡辺真起子、中村優子、中島ひろ子ほか。
2013年までに4戦を戦った耳が聞こえない元プロボクサー・小笠原恵子さんの自伝「負けないで!」を原案に、彼女の生き方から着想を得た作品。
嘘がつけず愛想笑いが苦手なケイコ(岸井ゆきの)は、生まれたときから両耳とも聞こえない。荒川に近い下町の一角にある小さなボクシングジムで日々鍛錬を重ねる彼女は、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。
母からは「いつまで続けるつもりなの?」と心配され、言葉にできない想いが心の中に溜まっていく。
「一度、お休みしたいです」と書き留めた会長(三浦友和)宛ての手紙を出せずにいたある日、ジムが閉鎖されることを知り、ケイコの心が動き出す・・・。
新しい映画体験をした1時間39分だった。
16mmフィルムで撮った映像が街の匂いや人の温もりを醸し出している。
何より、しょっぱなから足音やドアを開け閉めする音、ボクシングジムでパンチをバチバチぶつけ合ったり縄跳びしたりする音が、びしびしと耳に飛び込んでくる。
耳が聞こえないケイコの物語だから、もっともの静かな、抑えた音が響くのかと思ったら、まるで音が主役のように映画は進んでいく。
ところがである。映画を見ていくうち、ケイコの強い眼差しによるものなのか、音が吸い込まれていくようになっていくのだ。見ているわれわれが、まるでケイコみたいに耳ではなく目を澄まして、目で音を“聞いて”いるような不思議な感覚になっていくのだ。
耳が聞こえない人でも映画を観賞できるよう、日本語の字幕付きで、流れる効果音なんかについても「サイレンの音」といったように字幕が付いているので、その字幕の効果もあるかもしれないが、だんだんと、耳で聞くよりも、視覚やそのほかいろんな感覚を使って音を聞き、物語に見入っている自分に気づく。
映画とは空想の世界をつくり出すものだが、それには観客もかかわっているに違いない、とあらためて思った。
見ているわれわれは、いつしかケイコに共感し、彼女を応援しようという気になっている。すると、心の中もケイコと同化していって、いつしか物語の中の人物になっていくのではないか。それで耳で聞くのではなく、感覚を研ぎ澄まして音を聞くようなるのではないだろうか。
もちろん、そうさせるのは監督の三宅唱さんの才能であり、出演している役者たちの力演によるものだろう。
三宅唱監督は1984年生まれの38歳。北海道出身で、一橋大学社会学部卒業後、初長編「やくたたず」(2010年)を発表。ほかに音楽ドキュメンタリー「THE COCKPIT」(2015)、
佐藤泰志の小説を原作とする「きみの鳥はうたえる」などがある。
その目力(めぢから)でケイコ役に選ばれたであろう岸井ゆきのは1992年生まれの30歳。
高校時代に山手線の中でスカウトされ、2009年のデビューという。
映画のあと、ちょうどお昼どきだったので、新宿駅東口近くの沖縄そば・やんばるで沖縄そば。
カウンターのみ20席ぐらいの店だが、人気店みたいでお客が次々とやってきていた。
コロナ禍で沖縄にも行ってない。久しぶりの沖縄そばだ。