善福寺公園めぐり

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阪田知樹 ピアノ・リサイタル

六本木のサントリーホールで、阪田知樹のピアノ・リサイタルを聴く。

 

1993年生まれというから今年28歳の新鋭。2012年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで19歳で最年少での入賞を果たし、2016年のフランツ・リスト国際ピアノコンクールで第1位、6つの特別賞に輝き、アジア人男性ピアニスト初優勝の快挙。「天使が弾いているかのようだ」と審査員満場一致、圧倒的優勝を飾ったという。

 

デビュー10年の節目に、初のサントリーホールでのリサイタル。

広い会場だったが上々の入りで、1階席は8割がた埋まっていた。

みなさんピアノの好きな方々なのだろう、やはり女性が多い。

たった一人の演奏でこれだけの聴衆を集めるのだから、期待の高さがうかがわれる。

 

演奏曲はやはりメインにリスト。

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 Op. 27-2「月光」

シューマン 幻想曲 ハ長調 Op. 17

リスト ピアノ・ソナタ ロ短調 S. 178 / R. 21

リスト 「リゴレット」による演奏会用 パラフレーズ S. 434 / R. 267

 

ピアノだけに繊細さと叙情性はもちろんだが、それとダイナミックさ、スケールの大きさを併せ持つ演奏。一瞬、音が幾重にも重なって聞こえ、オーケストラの演奏か?とワクワクして聴くところもあった。

あとでパンフレットをよく見たら、最近発売した「イリュージョンズ」という彼のCDではチャイコフスキー交響曲5番と6番のそれぞれ第3楽章「ワルツ」と「スケルツォ」を弾いていて、ドラマチックな演奏が得意なのに違いない。

 

今回はトラブルというか、ハプニングもあった。

一番盛り上がるはずのリストの「ピアノ・ソナタ」を弾き始めて少ししたところで、突然、演奏をやめて「オーノー」といった感じで両手を上げて、舞台から引っ込んでしまった。

よくわからない客は「曲が終わったの?」と拍手するが、その後に出てきたのは調律師。

どうやらピアノの弦が切れちゃったみたいで、邪魔になるのだろう、切れた弦を巻いて去っていったが、あの太さからする低い音のあたりらしい。

弦が1本ぐらい切れても大丈夫なのか、やがて気を取り直して演奏を再開。何ごともなく弾き終えると、観客は「よかったよ!」と以前にも増して熱い拍手を送っていた(何しろコロナ禍なので「ブラボー」の声は禁じられ、拍手するしかない)。

 

ピアノの弦が切れる断線は、買ったばかりの車がパンクしてしまうのと同じで、よくある事故だという。弦の経年変化で劣化していたり、目に見えないほどの僅かな傷も断線の原因となり、新品ピアノでも切れることが稀にあるという。

特に、音を大きく変化させたときなどでは弦が張力の変化に耐えられないでブチンと切れることがあるというから、それだけダイナミックな演奏がされていたということなのだろう。

 

アンコール曲は2曲。

シューマン 献呈(君に捧ぐ)

バッハ アダージョBWV 564(阪田知樹 編曲)

 

シューマンの「献呈」は、結婚式前夜、妻となるクララにシューマンが捧げた曲で、友人リストの編曲によるものという。