千葉市美術館拡張リニューアルオープン・開館25周年記念と銘打った「宮島達男 クロニクル 1995−2020」を見にいく。
東京23区のはずれから東京を横断して千葉へ。1日かがりの美術鑑賞の“旅”だった。
宮島達男は、LED(発光ダイオード)のデジタル・カウンターを使用した作品で高く評価され、世界で活躍する現代美術作家。
今年6月、コロナ禍で臨時休館していた美術館がようやく再開し、出かけていった東京都現代美術館で見た宮島作品(1728個のLEDによる赤色のデジタル・カウンターがそれぞれ異なるスピードで1から9まで点滅し続ける作品)に感銘を受け、千葉市美術館で個展が開かれているというので出かけていった。
もちろん期待はして行ったが、なにせLEDのデジタル・カウンターを点けたり消したりのアートである。東京都現代美術館で見た以上のものがあるのだろうかと、申し訳ないが半分疑いの気持ちを持ちつつ出かけていったが、これほど奥深いものとは思わなかった。
文句なしに「よかった!」といえる美術展だった。
不安だらけの今の世の中。不規則な点滅を続けるLED数字の輝きは、なぜかそこに鑑賞者自身の「命」を感じさせる。
宮島が創り出すLEDの光はただ点滅しているだけではない。
彼は、「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」という3つのコンセプトにもとづいて作品を発表してきたが、作品のモチーフであるデジタル数字は命の輝きをあらわしている。0は表示されず、1から9の変化を永遠に繰り返すことで、人間にとって普遍的な問題である「生」と「死」の循環を見る者に想像させるのがねらいという。
宮島が描くデジタル数字はあらゆる可能性を開拓している。
たとえば人種問題。ヨーロッパ、アフリカ、アジア系の男女6人をモデルに、それぞれのおなかにボディペイントが施され、描かれているのはデジタル数字である。
瞑想の世界に誘う作品もあった。
「地と天」という作品は、地と天が1つになった「宇宙」がイメージされた大きな円形の中に、197個の青色の光で数字を点滅させていて、まるで星座のように輝いている。暗闇に浮かぶ淡い光が生と死の不可分なつながりを意識させてくれる。
顔に数字を描く作品もあった。
たとえば広島の原爆ドームの前。若い男の顔に数字の「2」が描かれている。
宮島は平和の問題、特にヒロシマ・ナガサキに関心が強いようで、「時の蘇生・柿の木プロジェクト」という活動にアーティストの立場から参加している。
長崎に落とされた原爆は長崎の街を一面焦土に変えたが、そんな中、奇跡的に生き残った1本の柿の木があった。ただし、その半身は真っ黒に焼け焦げ、いつ倒れてもおかしくないほど弱っていた。その弱った柿の木を治療し回復させたのが長崎に住む樹木医の海老沼正幸さん。1994年、海老沼さんはその柿の木からつくられた干し柿のタネから「被爆柿の木2世」として苗木を育て、平和の象徴として苗木を長崎を訪れる子どもたちに配る活動を始めた。それを知った宮島は翌年、海老沼さんの活動を応援するため展覧会で苗木を展示し、里親を募集。すると10件もの応募があり、そのうちのひとつ東京・台東区の旧柳北小学校が植樹地として選ばれた。 こうした中で宮島は「時の蘇生・柿の木プロジェクト」というアートプロジェクトを構想し、実行委員会を立ち上げた。そして翌年、「被爆柿の木2世」 がプロジェクトの第1号として旧柳北小学校に植樹され、その活動は国内だけでなく海外にも広がって行った。
その活動の様子も紹介されていた。
以下は写真撮影が許された作品のいくつか。
「Life (le corps sans organes) – no.18」2013年
LEDによって光る数字のカウントは「生命(Life)」のようにランダムに変化し続ける。
「Diamondo in You No.17」2010年
三角形のステンレス鏡が組み合わされていて、それぞれに赤、緑・青のLEDが取り付けられ、光の乱反射によって輝きを増す。作品のモチーフは「仏の智恵」を意味する「金剛智」だという。
「C.F.Plateaux‐no.7」2007年
「Fragile(もろい、壊れやすい)」という語をシリーズ名とした作品。極小のLEDが細いワイヤーでつながれている。
「C.F.Lflifestructurismhlv‐no.18」2009年
「Time Train to Auschwitz‐no.1」2008年
ドイツでつくられた鉄道模型の上にLEDが取り付けられている。テーマは「ホロコースト(ナチス政権によるユダヤ人虐殺)」。
「Innumerable Life/Buddha MMD-03」2019年
2500個のLEDが不規則に点滅を繰り返している。「Buddha(仏陀)」というタイトルがついているように、法華経の「地涌(じゆ)の菩薩」がイメージの源泉という。
「Floating Time」2000年
さまざまな色と大きさの数字が浮遊する空間の中で、鑑賞者が自由に歩き回ることができるというので「Floating Time」。床に投影されたデジタル数字は、鑑賞者の衣服や体にまるで触れるように浮遊し、変化し続ける。作品と鑑賞者とがシンクロし、「活きた空間」にするのが目的でつくられた。
秋田市の病院で、終末期医療の患者への精神的なケアを目的とした「時の浮遊‐ホスピス・プロジェクト」で使われたものという。
展覧会を見終わって帰ろうとしたら、千葉市美術館で来年1月15日から2月28日まで、同美術館所蔵の田中一村展を開催予定という。
「孤高の画家」といわれた田中一村は千葉県に長く住んだことから千葉県ゆかりの画家で、彼の死後、「アダンの海辺」などの絵が同美術館に寄託されている。
田中一村は死ぬまでにぜひとも見たいと思っていた画家。
来年が楽しみだ。