仕事で京都へ行ったついでに京都市内を散歩。
いつも人でいっぱいの京都と違って観光客が激減。もっぱら市バスで移動したが、どれもすいていてゆっくり座れた。
まず行ったのは旧三井家下鴨別邸。
下鴨神社の南に位置し、三井家11家の共有の別邸として建てられた。
主屋はもともと1880(明治13)年に総領家当主の隠居所として木屋町に建てられ、1925(大正14)年に現在地に移築された。
別邸というから移築後も引き続き隠居所として使われたのかと思ったらそうではなく、となりに三井家の先祖を祀った顕名霊社があり、参拝の際の休憩所として一時的に使われていただけだという。何と贅沢な。
しかし、敗戦による財閥解体で三井家の土地は国有地となり、顕名霊社があった敷地には京都家庭裁判所が建設された。主屋は裁判所長舎として2007年まで使用されていて、その後は競売にかけられる予定だったが、文化財調査で明治・大正期に豪商が建てた和風建築として現存する稀有なものと認められ、2011年に国の重要文化財に指定された。
主屋の最大の特徴は「眺望を楽しむこと」だそうで、2階建ての数寄屋風建築の屋根の中央に望楼が設けられ、鴨川や東山の眺望を楽しむことができる。
1階2階も、座敷の前にはガラス入りの障子が用いられ、庭園が目の前に広がっている。
興味深かったのは屋根が緩やかだが丸いカーブを描いていることだ。
これは「むくり屋根」と呼ばれるもので、日本独特の建築様式という。
中国や朝鮮半島から伝わった屋根の形としては「反り屋根」があり、神社仏閣などでよく目にするが、日本人独自の精神性を表現したのがむくり屋根という。
独特の丸みを帯びた美しい外観から、はじめのころは商人の家屋に用いられるようになったが、その後、公家の家屋にも採用されるようになり、有名なのは江戸時代初めに建てられた「桂離宮」だという。
むくり屋根は、社寺仏閣や武家屋敷の反り屋根に対して、優雅さを演出するためにあえて丸みを帯びた屋根にしたといわれるが、実はむくり屋根は、もともとの日本家屋の屋根の形にほかならないのではないかと思う。
日本の古来の屋根の形といえば藁葺き、茅葺きなどの自然素材を使った屋根だ。その歴史は縄文時代の竪穴式住居の時代にまでさかのぼる。
藁葺き屋根、茅葺き屋根の、何と丸みを帯びていることか。
その形状から、雨が降っても水が下に流れていきやすく、雨の多い日本の風土にぴったりの、自然に逆らわない屋根の形なのだ。
感性というものは風土とは無縁ではなく、いやむしろ風土の中で育まれるものといえる。そう考えると、むくり屋根の優雅さ、ほっこり感とは、日本ならではの風土の所産といえるのではないか。
せっかく下鴨神社まで来たのだからと、旧三井家下鴨別邸のとなりにある下鴨神社摂社の河合神社へ。
ここには鴨長明の「方丈」が復元されてある。
広さが1丈(約3m)四方であるから方丈の名があるんだとか。
移動に便利な組立式で、鴨長明はプレハブ住宅の元祖でもあった。
そんな方丈をしげしげと見ていると、まわりの和服姿の女性たちがやけににぎやかだ。
何ごとかと思ったら、この神社は「女性守護 日本第一美麗神」の神社だそうで、「鏡絵馬」と呼ばれる手鏡形の絵馬が若い女性たちに大人気。
絵馬にあらかじめ描かれた顔を自分の顔に見立てて、美しい女性になれるよう願いを込めてお化粧して奉納すると、いいことがあるらしい。
夜は二条城近くの「蜂巣」という店へ。
刺身盛り合わせやおばんざいなどに舌鼓を打つ。
お酒もいろいろ飲んだが、変わっていたのが「春鹿 封印酒」。
瓶を見せてもらったら、しっかりと遮光袋に“封印”されていた。
つづく。