初芝居、初笑いはやっぱり松の内にと、6日は歌舞伎座・初春大歌舞伎の夜の部、7日は国立演芸場の新春国立名人会へ。
まずは歌舞伎座。
ロビーには正月飾りや鏡餅が飾られ、着物姿の女性も目立つ。
演目は、白鸚、歌六らによる「義経腰越状 五斗三番叟」、猿之助、團子の「連獅子」、それに久々に歌舞伎に帰って来た勘九郎、七之助による「鰯賣戀曳網」。いずれも正月らしい出し物。
久々の勘九郎の滑稽さに大笑い。楽しい舞台だった。
ところでこの作品、室町時代ごろに成立した「御伽草子」の中の「猿源氏草子」を元に、三島由紀夫が書き下ろしたものだという。
今回、見終わって思ったことがあった。
三島作品では、七之助の傾城蛍火にひと目惚れし、恋煩いとなった勘九郎の鰯賣猿源氏が、大名しか相手にしないという蛍火に会うため大名と偽って揚屋に乗り込み、蛍火といい仲になるが、寝言でうっかり鰯売りの売り声を叫んでしまって身分が露顕。それを蛍火が怒るどころか、実は彼女はお城のお姫さまで、あるとき鰯売りの売り声を聞いて、その声に惚れてお城を抜け出したものの悪い男にたぶらかされて遊女になった。侍なんかでなくお前さんこそ会いたかった鰯売り、というのでメデタシメデタシとなるが、お姫さまが鰯売りの売り声を聞いて一目惚れ(一声惚れ?)するなんて、いくらファンタジーとはいえそんなことあるのか?と思った。
そこで見終わってから原作の「猿源氏草子」がどんな話だったか調べてみると、原作と三島作品とではだいぶ話が違う。
原作でも、伊勢国阿漕が浦の鰯売り猿源氏が大名を偽って蛍火といい仲になり、寝言で売り声を叫んだところまでは三島作品と一緒。
しかし、ここから話が違ってきて、大名と思った男が鰯売りとわかって蛍火は大いに悔しがり、猿源氏を問い詰める。すると猿源氏は矢継ぎ早の質問に次々と歌の引用で答えてゆく。見事なまでの猿源氏の歌の知識に参った蛍火は、改めて鰯売りに惚れ直して夫婦になる、というのが原作のストーリー。
時は室町時代。京の町衆に代表されるように町民たちが次第に経済力をつけ、貴族に負けないほどの教養を身につけていくという時代背景の中で描かれた、といわれているのが原作で、だとするとなかなかの“社会派”作品といえる。三島のほうはおもしろおかしくはあってもそこまで時代を見つめているわけでもない。昔の人のほうが世の中の変化を敏感にとらえて物語をつくっていたということか。
歌舞伎の翌日の7日は国立演芸場で初笑い。
国立演芸場1階の園芸資料展示室では「落語の四季」と題する演芸資料展を開催中で、落語の「あたま山」をヒントにした和紙人形(梶沼由紀子作)がおかしかった。
毎年最終日に行くが、当然のことながら客席は満員。
みなさんのお目当てはトリで出てくる小三治。
しかし、いつもロビーに出ている売店はなぜかお休み。
終演後は出演者による手拭い撒きがあったが、それも今年はなし。
小三治の落語も、まくらが長引いて、午後4時の終演時刻になると、まくらだけで落語はなし。
だからいつも帰りに張り出される演目一覧(出演者は当日、客の顔を見て演目を決めるので、いつも終わりまでに手書きしたのが張り出される)にも、書くのに窮して小三治がまくらで3番まで歌ったフランク永井の歌の題名である「公園の手品師」と書かれてあった。
しかし、小三治は多少時間がオーバーしても落語をやりたかったに違いない。小三治のまくらが長いのは有名で、以前もまくらが長くなって、30分ぐらいまくらをやって4時ごろになったが、時間はオーバーしてもそれから30分ぐらいしっかり落語をやってくれた。
そのへんの融通さが最近の国立演芸場にはないのか。
何だか経費削減ばかりを優先させているみたいで、ちょっとガッカリした今年の初笑いだった。