善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

トロールの森2015

今年も11月3日(文化の日)から23日(勤労感謝の日)まで、東京・杉並区の善福寺公園の上池をメーン会場に「トロールの森2015」が開催される。
公園での野外アート展、パフォーマンスのほか、JR西荻窪駅周辺の“まちなか”でもパフォーマンスや展示などが行われ、30を超えるプログラムが23日までの21日間に渡って繰り広げられる。
オープン前々日の1日(日)には「まち(西荻窪駅周辺)」と「もり(善福寺公園)」をつなぐ「わいわいパレード」もある。

私が所属する地域のミニラジオ局「ラジオぱちぱち」は、黄金バット第87作「弱虫ダイダラボッチvs最強屁こき女の巻」の上演(3日、15日、23日)と池の端でのオープンカフェ(毎日曜日と祝日)を開催。

ダイダラボッチが登場する黄金バットの第87作は、今年春の周年祭での黄金バット第85作「君はダイダラボッチを見たか」に続くもの。

黄金バット第85作をどうしようかと思案していたとき、あらためて読んだのが児童文学作家・斉藤隆介の『八郎』という絵本だった(絵は滝平二郎、2人とも今や故人となっている)。
斉藤隆介の作品は『ベロ出しチョンマ』『花さき山』『モチモチの木』などなど、どれもすばらしいものばかり。

『八郎』は、大きくなりたい大きくなりたいと願ってばかりいる八郎という山男が、村人を守るため、海の水が田畑に流れ込んでくるのを自分の体で押しとどめ、「おらがなして大きくなりたいと思ったかわかった」と悟る話。
この話をヒントに、八郎をダイダラボッチに変えて話を作ったが、最近になって意外なことがわかった。
ダイダラボッチは「トロールの森」の会場ともなる善福寺公園にもやってきていたというのだ。(もちろんダイダラボッチがやってきたころは公園なんてなかったが)

ダイダラボッチと呼ばれる巨人がいて、あちこちをのっしのっしと歩いたという伝説は日本各地に残っていて、世界各地にある巨人伝説の日本版といえる。
伝承の中に、ダイダラボッチの足跡は杉並区内にもあり、区内善福寺にある善福寺池がまさしくそれだ、というのがある。

詳しくは杉並郷土史会が発行する『杉並郷土史会報』第252号(2015年7月25日発行)で民俗学者の長沢利明氏が「善福寺池ダイダラボッチ」と題して詳述しているが、ダイダラボッチが歩いた足跡が窪地となり、そこに水がたまり、池ができたと語り伝えられてきたのだという。
ただし、伝承ではダイダラボッチではなくヘエタラボッチと呼ばれていたらしいが(東京にしては相当なまっている。まあ昔はこのあたりは江戸からずっと離れた田舎だったから余計に信憑性はあるが)、なるほど、地図を見ると、たしかに池は巨大な人間の足の裏の形をしていて、池の北西側の上池は足の先端部で、5本の指が開いたような形になっている。南東側の下池は踵部分の形をしていて、その間は土踏まずみたいになっている。
これで見るとダイダラボッチ(ヘエタラボッチ)は北西、つまり東京湾から武蔵野の山奥に向かって歩いた感じになっている。
この点は、日本民俗学の大家、柳田国男の話とも符合していて、柳田は「ダイダラ坊の足跡」という小論の中で次のように述べている。
「武蔵野は水源が西北にあるゆえに、ダイダラ坊はいつでも海の方または大川の方から、奥地に向いて闊歩(かっぽ)したことになる」

ともかくダイダラボッチは、善福寺池の端で開催するトロールの森にピッタリのテーマだったというわけなのである。

そのダイダラボッチに、今回、なぜ屁こき女を加えたか。

斉藤隆介の本を読んでいたら、巻末に対談があり、大好きな昔話として2つの話をあげていた。その1つが「屁こき嫁」という話だった。
どんな話かというと、村の息子が嫁をもらったところ、その嫁はもんのすごいドでかい屁をする嫁だった。「こんな嫁は実家に帰せ」というので息子に見送られて帰る途中、嫁の屁はとても役立つことがわかったので戻ってきて、嫁が屁をしても誰も飛ばされない専用の場所を作ってあげた。これが「へや(部屋)」のはじまりだ、というようなあらすじだった。

斉藤隆介がなぜこの話が大好きかというと、「封建制度への反逆の話だから」とかいっていた。昔は(今もそうかもしれないが)家制度というのが厳然とあり、一番偉いのは男の戸主で、嫁は従属するしかなかった。戸主だろうが誰だろうが、ブーッと屁で吹き飛ばす嫁の姿は、まさしくそんな封建的な考え方を屁と一緒に笑い飛ばすような痛快な話だと彼は言っていた。

もう1つ大好きなのが「絵姿女房」で、これも反封建がテーマだと斉藤隆介はいう。
ある百姓夫婦がいて、女房の美しさにうっとりする亭主は畑仕事もしないで女房の顔ばかりみていた。そこで女房は自分の姿を絵に描いて「これを見ながら畑仕事に精を出してね」と諭す。ところがある日のこと、絵が風で飛ばされ、殿様のところに飛んでいき、その絵を見て女房に横恋慕した殿様は、無理やり自分の嫁にしてしまう。
ところが以来、嫁はまるで笑わなくなり、殿様が困っていると、お城の外で桃売りの声がして嫁さんは喜んで笑い出す。桃売りの声を聞くと嬉しくなるなら、このワシが桃売りになろうと桃売りと着物を交換して売り声をあげる。嫁が喜ぶので売り歩くうちに城の外に出てしまい、夕方になって帰ろうとすると門番は殿様とは知らず桃売りと思って追い返す。殿様と着物を取り替えた桃売りは実は嫁の亭主で、その後2人は幸せに暮らしましたとさ、という話。

百姓が殿様を追い出して殿様に取って代わるという、エライ人にとってはとんでもない話で、よくもこんなのが語り伝えられたなと思うほど胸のすく話だ。

そこで、心優しいがちょっと弱虫のダイダラボッチと、豪快な屁をする女が対決するとどうなるかという話を、正義の味方・黄金バットと悪の怪人・ナゾーとのおなじみの対決とゴチャマゼにして作ったのが今回の話。

只今みんなして舞台製作と稽古の最中である。