善福寺公園めぐり

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国立劇場 5月文楽公演

国立劇場の5月文楽公演は吉田玉女改め二代目吉田玉男襲名披露公演。
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第2部の「祇園祭礼信仰記」「桂川連理柵(れんりのしがらみ)」を観る。

夜の部とあって観客は比較的若い人が多い。それも若い女性が目立つ。
前から3列目の中央付近で観たので、舞台全体も、個々の人形もよく分かる。

二代目玉男が出演したのは「お半長」で知られる「桂川連理柵」。
改めて観てこの作品は傑作だと思った。
文楽や歌舞伎の心中物に登場するヤサ男は、たいがいがどーしょうもないダメ男。しかし、今回の長右衛門はけっこうスジの通った男として描かれている。

長右衛門は、家の乗っ取りを図る継母おとせから、芸子遊びの果てに店の金100両を使い込み、戸棚にしまってあった50両までも盗んだと追及されるが、実は100両は、夫長右衛門に尽くしてくれる女房のお絹の弟のために使ったのであり、50両を盗んだのもホントは継母であると知っているものの、真実を言えばお絹がかわいそうだし、継母を追い詰めれば親不孝になると、黙っていたのだ。
それに、養父の繁斎は「この家の主人は長右衛門なのだから、主人が自分の金をどう使おうと思いのまま」と言ってくれたので、金のことは問題なくなった。

しかし、良心の呵責にさいなまされるのは旅の宿での一件。隣家の娘・お半とフトしたことで間違いを犯してしまい、預かっていた名刀までも盗まれてしまう事件があった。
これは何とかしてケジメをつけなければいけない。死んでわびるしかないと覚悟を決めたところへ、忍んでやってきたのが隣家のお半。まだ14歳のお半は、40近い長右衛門と間違いを犯して身ごもってしまっていた。お半は、これまでかわいがってくれたお礼を述べ、「お達者で」と去っていくが、お半の様子を不審に思った長右衛門がみつけたのは、桂川に身を沈めるとしたためたお半の書き置き。

長右衛門はかつて、芸子と桂川で心中しようとして、自分だけ生き残った過去があった。ちょうど響くのは養父繁斎が唱える「ナンマイダ」の読経。場所も同じ桂川、その芸子がお半に生まれ変わり、心中を誘っているに違いない。輪廻転生、因果応報。これこそ因果の罪滅ぼし、と長右衛門とお半は死出の旅に立っていく。

「帯屋の段」で嶋大夫が大熱演。

人形は、長右衛門に玉男、お絹に和生、そしてお半に勘十郎。3人はほぼ同期生で、玉男は初代玉男、和生は文雀、勘十郎は簑助の弟子。これからはこの3人が文楽を引っ張っていくのだろう。
師匠の「静の中の動」を見習ってか、玉男の動きが師匠の芸を彷彿させる。
勘十郎の女形がすばらしい。(勘十郎びいきとしてはただウットリ)
丁稚長吉に簑助。義兵衛(簑二郎)との滑稽なやり取りに客席がどっと沸く。悲劇の中の喜劇のおもしろさ。
嶋大夫との呼吸が合って、「これぞ文楽!」という感じ。