善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

最後の1分

エレナー・アップデール『最後の1分』(東京創元社 杉田七重訳)
イギリスの作家の作品。

ここで起こった事件自体は悲劇的で悲惨な出来事であるのに、あえてなのか、軽く描いていてサラッと読める。事実、休日の1日で読み終えた。

この小説のミソは、大惨事勃発の1分前の出来事を描いていること。たくさんの人物が登場するが、その1人1人が主人公で、1つの章に1秒の話が凝縮されている。
登場人物は何十人といて、たとえば、靴屋の2階の薄暗い部屋にすむ51歳の小説家、ノエル・ギリアード。高い評価を受けた作品がたった1冊。ただしほとんど読まれていない。それ以外の数作品はすべてボツ。きょうもコンピュータに向かって作品を書こうとしているがまるで筆が進んでいない。

地元のパッとはしない大学を出てから早1年以上が経過しているがなかなか就職が決まらず、ようやく面接にこぎつけたスチュアート・ペントン。面接を前に、道端でほどけた靴紐を結び直そうとして腰をかがめこところ、ズボンは破れるわ、犬の糞をふんづけてそれが顔につくやらでパニックに陥っている。

次期選挙を控え選挙を手伝う女の子と不倫中の政治家、アンソニー・ドゥガール。

内容よりもむしろ、小説の手法がおもしろい。イギリスの作家ならではの感性か。
東京創元社のHPによれば、著者エレナー・アップデールは、この作品のことを次のように語っている。

『最後の1分』は、小さな町に壊滅的な被害をもたらした、連続爆発事件発生直前の60秒間の物語です。そもそもの最初から、読者は大災害が起こることがわかっているのですが、登場人物たちにとっては今日もまた普通の一日。この日を境に自分の人生ががらりと変わるなどとは、誰ひとり思っていません。時間が刻々と進むに連れて(一章で一秒間の出来事が語られます)、読者は登場人物のいずれかに、なんとかしてこの災難を逃れて欲しいと肩入れする。あまり好感の持てない人物については、当然の報いを受ければいいと、心密かに思ったりする。そうなれば、こちらの目論見は成功です。

たしかに結果はかなりの皮肉になっているが・・・。