善福寺公園めぐり

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凱旋門賞と川田将雅騎手

あさって5日(日)に行われる秋の欧州最大にして世界最高峰の競馬の1つ、凱旋門賞(仏ロンシャン競馬場・芝2400m)で、初めて日本馬と日本人ジョッキーが優勝するかもしれない。

その人馬とはハープスタート(牝3歳・父ディープインパクト)と川田将雅(ゆうが)騎手(28歳)。
ほかにも日本からはゴールドシップ(牡5歳、横山典弘騎手=46歳)、ジャスタウェイ(同、福永祐一騎手=37歳)が出走するが、優勝の可能性が高いのはハープスターだろう。

去年の凱旋門賞をニュース映像で見て、このレースは3歳牝馬でなければ勝てないと思った。
このレースの出走条件はサラブレッド3歳以上牡馬・牝馬。負担重量は3歳56kg、4歳以上59・5kg、牝馬1・5kg減。
ということは、ゴールドシップジャスタウェイともに59・5㎏を背負わなくてはいけないのに対して、3歳牝馬ハープスターは54・5㎏。何と5㎏もの差。これは大きい。
しかも、馬にとって59・5㎏というのは酷量といえる。日本の競馬で、障害レースなら60㎏というのもあるが、平地のレースでは最高でも59㎏。それはよほど相手が弱い馬の場合のハンデ戦での斤量であり、強い馬同士が走るレースで59・5㎏も背負っていたら、なかなか勝てるものじゃない。

そして何より、3歳牝馬ハープスターの騎手が川田というのがうれしい。大ベテランの横山騎手、ベテランの域に達した福永騎手に対して、まだ20代の若手(そろそろ中堅の仲間入りか)だが、実は川田が騎手にデビューしてから間もなくのころからずっと彼を応援してきたからだ。

応援するようになったきっかけは、彼がデビュー間もないころ、人気のない馬で勝利することが何度かあり、いくつかレースを見るうち(もちろんテレビで)、ひょっとして将来、天才・武豊を上回るようなトップジョッキーになるかもしれない、と注目するようになった。
調べてみたら九州は佐賀の出身で、曾祖父は地方競馬佐賀競馬の騎手で、祖父・父・伯父がともに佐賀競馬の調教師。競馬一族に生まれたわけだけど、武豊福永祐一のように華やかな中央競馬の騎手や調教師を父に持つ御曹司じゃない。そこがまた気に入った。

G1レースでも、思い切った乗り方で勝利をもぎ取っている。
たとえば2008年の皐月賞では、ほとんど逃げのレースをしたことのない7番人気のキャプテントゥーレをスタートから先頭に立たせ、そのまま逃げきり勝ちをおさめた。これが彼のG1初勝利でもあった。
10年の菊花賞ではビッグウィークで優勝しているが、このときも7番人気で、切れはないが長くいい脚を使う馬の特徴をつかんだ絶妙の騎乗ぶりだった。ビッグウィークがG1レースで勝ったのはその一戦だけ(というよりその後まったく未勝利で障害レースに転向)。一瞬の輝きを、最高の舞台で引き出したのが川田騎手だった。

昨年は最高勝率とフェアプレー賞を受賞している。
勝利数は120勝で、福永祐一騎手の131勝に次ぐ第2位の成績。驚くべきことは、福永騎手の騎乗数が844鞍あったのに、川田騎手のそれは724鞍しかなかったこと(リーディング上位の他の騎手もみな800鞍以上)。100鞍以上も少ない騎乗なのにトップに迫る勝利数。
その結果、勝率、連対率、3着内率ともに堂々の第1位となり、しかも乗り方が紳士的とほめられるのだから申し分ない。
ただし、川田騎手の直線に入ってからの馬の追い方はちょっとどうかと思う。馬の背中にペッタンペッタンとお尻をぶつけるような乗り方で、馬を鼓舞しているんだろうが、あまり美しいとは思えない。
騎手を引退したばかりの安藤勝己元ジョッキーも「もうちょっと綺麗に乗ってほしい」と注文を出していた。
その点を本人も気にしたのか、最近はあまり目立たなくなったので、まあいいけど。

ちなみに今年は、一時、リーディングのトップを走っていたけど、現在(9月28日現在)は7位。依然として騎乗回数は少なく、トップの戸崎騎手が715鞍も乗っているのに川田騎手は420鞍。300鞍近くも少ない。それでも勝率、連対率、3着内率はやはりトップで、特に3着内率は0・448と図抜けて高い。一時3着内率が5割に達していた時期があり、2回に1回は3連単に騎乗馬が入っていたことになる。

それにしても、花形騎手なのに騎乗回数が少ないのはなぜだろうか。特にその日のメインの11レースに乗らないことも多く、いつもがっかりする。
勝つことにこだわり、あえて勝てる馬だけを選んで乗っているのだろうか。
しかし、騎手は馬に乗るのが仕事であり、だから騎乗すれば騎乗手当が出るわけだし、乗ってほしいと馬主や調教師から依頼がきて、「負けそうな馬だから乗りたくない」とは決していえないだろう。
騎乗手当は1回の騎乗あたり数万円という。1日12レースあるから、全部に騎乗すればそれだけで数十万円の稼ぎになる。ただし、競馬は毎週土日の2日しかないが。
さらに5着以内に入れば、賞金の5%が騎手の取り分となる。1着賞金1億円のレースで勝利すれば、それだけで500万円の収入だ。

それとも、競馬界にはエージェント制度というのがあって、エージェント(騎乗依頼仲介者)と称する人(主に競馬専門紙の記者が副業でやっている)が契約を結んだ騎手の代理として馬主や調教師から依頼を受けつつ、その騎手の騎乗馬を調整しているが、川田騎手にはいいエージェントがついていないのだろうか。

あるいは、まだ小僧っ子、あるいは乗り方が気に入らないと馬主や調教師からはあまり信頼されていないのだろうか?

ともかくも、今度の日曜日の深夜を期待したい。