善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

アイルランド旅行記 その2

アイルランドの旅2日目(出発日からすると3日目)の7月13日(日)、朝からいい天気。
ベルファスト北方の港町ラーンからポートフラッシュまでの約100㎞に及ぶ“世界で最も風光明媚な海岸道”と呼ばれる海岸道路をドライブし、「ダーク・ヘッジ」を経て、「キャリック・ア・リード吊り橋」、そして世界遺産の「ジャイアンツ・コーズウェイ」、再びベルファストへと1日かけてまわる。

海岸道路の右手に広がるアイリッシュ海
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内陸に入ると、道路の左右に緑が広がるが、いずれも牧草地。羊や牛、馬などが次々にあらわれるが、畑はない。たまに麦畑を見るが、アイルランドを旅行中、ついに一度も野菜の畑を見ることはなかった。それだけ牧畜が盛んということなのか?
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途中、見た黄色い花々。
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この日最初に訪れたのが「ダーク・ヘッジ」。日本語では「暗い生け垣」の意味。
18世紀に植えられた数100mほどの木のトンネルで、妖精や幽霊が出るとウワサされる並木道。
樹種は「セイヨウイチイ」だそうだが、両側にみっちり植えられた木々が上から覆い被さり、まさにトンネルのよう。
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「セイヨウイチイ」はイギリスやアイルランドでは墓場によく植えられる木だという。
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以前読んだ『怪物はささやく』という中高生向けの本を思い出した。たしかイギリスの作家の本で、13歳の少年が、重い病気にかかった母親の死といかに向き合うかをテーマにした内容だった。
夜ごと、怪物があらわれ、おとぎ話のような話を少年に聞かせるが、その怪物とは古い大きなイチイの木が変身した姿だった。
イギリスやアイルランドでは、イチイは人の心に働きかける何らかの役割を持っているのだろうか。

イチイは常緑針葉樹で、別名アララギ。永遠性・不滅性を重視するキリスト教にとって、常緑樹のイチイは枯れることのない不滅性の象徴だったのかもしれない。

しかし、キリスト教以前の古代ケルト人にとっては、イチイは輪廻転生を見届ける木だったのではないか。
闇の季節が終わって光の季節が到来するように、命にも終わりがあって再生がある。ケルト人たちはそう考えていて、人々の生まれ変わりを見守るのが、何千年もの命を宿すイチイの巨木なのだろう。

イチイは薬用植物でもある。
果実は食用になるが、種子には毒があり、昔は瀉下薬や鎮咳薬などに用いられた。また、葉は虫下しとして使われた。
近年では、葉や樹皮に含まれる物質から抗がん薬の成分が見つかっている。パクリタキセルという薬で、乳がんや肺がん、卵巣がんなどの治療に広く使われていて、有力な抗がん薬の1つとなっている。

イチイの木は硬くて緻密で光沢があり、室内材や家具などによく使われ、大昔は弓の材料としても用いられたという。古代ケルト人はイチイから弓を作り、矢にはイチイの毒を塗っていたという。事実、ヨーロッパ・アルプスの氷河で発見された5300年前の古代人のミイラ「アイスマン」はイチイの木で作った弓を持っていた。

日本でもイチイ材で「笏(しゃく)」を作っていて、朝廷の最高位「一位」にちなんで「イチイ」と名付けられたのだとか。鳥のゴイサギが「五位」に由来しているのと同じだ。
朝廷ではサカキに準ずるものとして、神に供える木としても用いられたらしい。

不思議なパワーを持つイチイの木。ダーク・ヘッジのトンネルの中にいると、古代・中世の人々のささやきが聞こえてきそうだ。

(続く)