善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

最後の紙面

トム・ラックマン『最後の紙面』(日経文芸文庫)。訳は東江一紀

原題は『The Imperfectionists』。「不完全な人たち」という意味か。本書を読んでみると原題の方がピッタリな気がする。

ローマにある新聞社(といっても架空の)を舞台に、第一線の記者から編集主幹、社主、読者まで、11人の物語が織りなす連作短編集。
それぞれの物語の合間にコラムが挟まれ、その新聞社の創刊から廃刊までの歴史が綴られる。

読んでみるとたしかにそれぞれの主人公はどれも「不完全な人々」。書き方も皮肉っぽいタッチだが、どこかやさしいまなざしがある。新聞社とは無縁の一般のわが身に照らしてもあり得る話で、読みながら身につまされるところも。
しかも短編集なので読みやすく、アッという間に読み終える。文章も巧み。それは訳がいいからでもある。

筆者はよほど年季の入った人かと思いきや、本書の刊行当時35歳で、本書がデビュー作というから驚き。

ただし、この新聞社が紙の新聞から脱却できず、結局はネット社会に負けて廃刊に追い込まれるという設定は、ちょいと短絡的で発想が単純と感じた。
それぞれのエピソードはおもしろいが、一方で、全体を俯瞰する目も大切で、それが連作短編の醍醐味だと思う。1つ1つは別物でも、読み終わったら、また違った味わいのある1つの物語だった、そんな小説を読みたい。