善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

シスターズ・ブラザーズ

パトリック・デウィット『シスターズ・ブラザーズ』(茂木健訳・東京創元社

ヘンな題名と思ったら、名字がシスターズという兄弟の話。
これがおもしろくて、仕事の往復の電車の中とか、アッという間に読み終えてしまった。

ミステリーかと思って手に取ったらまるで関係ない。ときは1851年、ゴールドラッシュに沸くアメリカが舞台の“西部劇”。

イーライというシスターズ兄弟の弟の一人称で語られていくが、天真爛漫というか、のんびりとした感じの語り口が妙に魅力的。
兄弟は2人そろって粗野で暴力的なガンマンであり(もちろん人情味もある。だから救われる)、いともたやすく人を殺してしまうし(1冊の本の中でいったい何人の人間が殺されたことか)、グロテスクな表現もあるが、ホンワカした気分で読み進める、不思議な魅力。

1851年といえば日本では江戸時代末期。ペリーが黒船4隻を率いて浦賀にやってきたのが2年後のこと。武士による斬り捨て御免の風習はまだ残っていただろうから、平気で人を殺す西部劇もわからないではないが、それにしてもこの本での人の命は軽すぎる。それでもおもしろく読めたのは、主人公の2人がよく描けていたからだろう。

どんな話かというと──。
粗野で狡い兄・チャーリー、普段は優しいが、キレると大変なことになる弟・イーライ、悪名とどろく凄腕の殺し屋シスターズ兄弟は、雇い主の“提督”に命じられるまま、ある山師を消しにカリフォルニアへと旅立つ。
ゴールドラッシュに沸く狂乱のアメリカで、兄弟は何に出遭い、何を得て、そして何か失うのか?
この「何を得て、何を失うか」が本書のキモ。現代に通じるところがあると思う。

日本では去年出版されたが、原著は2011年に発表され、ブッカー賞の最終候補作に選ばれたほか、作者の出身国であるカナダでは、カナダでもっとも権威のあるとされる総督文学賞をはじめ4つの賞を制覇したという。