善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

川瀬七緒 147ヘルツの警鐘

川瀬七緒『147ヘルツの警鐘 法医昆虫学捜査官』(講談社)。
2011年に『よろずのことに気をつけよ』で江戸川乱歩賞を受賞した人。

どうなんだかなーと思いつつ読み始めたが、なかなかおもしろかった。

冒頭いきなり司法解剖のシーン。これがなかなかリアル。
解剖されたのは全焼したアパートから見つかった焼死体。放火殺人事件の疑いがある。
焼け焦げ炭化した死体を解剖すると、意外な事実が判明する。被害者の腹腔から大量のハエの幼虫が発見されたのだ。しかも、一部は生きた状態だった。
手がかりに「虫」が発見されたため、法医昆虫学が捜査に導入されることになる。
法医昆虫学はアメリカでは導入済みだが、日本では初めての試み。赤堀涼子という学者が紹介され、いぶかる一課の岩楯警部補と鰐川。ハエの幼虫は何を語るのか──?


法医学とか法医解剖学とかは聞いたことがあるけど法医昆虫学なんてのがあるのか、と思ったら、あるらしい。日本ではなじみが薄いが、森林などで遺棄死体が多く見つかるアメリカあたりではかなり研究が進んでいるという。

人間の死体には、死後しばらくするとハエがやってきて卵を産み、それがかえってウジとなり、次に別の虫がやってきて、その次にスズメバチ、そしてクモ・・・といったように非常に規則性のある経過をたどるのだとか。そこで、死体にとりついたウジの成長度合いから死後の経過時間を測定したりするのが法医昆虫学という。

死後の経過時間を測定する方法としては直腸の温度を測ったりもするが、これだと死後に時間がかかった場合などは有効ではない。
ところが本書によれば、人が死ぬとハエは死臭を嗅ぎ取って10分以内に死体に卵を産みつけるのだとか。そこで、死んでから何日もたっていても、死体から見つかった幼虫の発育期間を調べれば、死後の経過時間もわかるというわけだ。ちょっとゾッとする話。

ちなみに147ヘルツとは、ハエが羽ばたく周波数のこと。一方、ハチの周波数は150ヘルツ。ハエはハチの周波数に近い羽音を出すことによって、捕食者に自分が毒針を持つハチであると錯覚させ、生き延びているのだとか。擬態ならぬ擬音効果か? 生きものはみんなしたたかだ。

主人公の法医昆虫学者・赤堀の登場シーンは東野圭吾の小説の湯川学の登場シーンに似てなくもないが、最後のほうはハラハラしながら読めた。