善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

十二月歌舞伎 籠釣瓶花街酔醒

きのうは新橋演舞場で十二月歌舞伎夜の部を観る。
勘三郎の「無念」の死から間もない。
半分暗い心持ちで出かけたが、会場は満員でにぎやか。
みなさんの思い出の中に勘三郎は生きているのだろう。

演目は『籠釣瓶花街酔醒』(かごつるべさとのえいざめ)と『奴道成寺』。

まず『籠釣瓶・・・』。
「縁切り物」として人気の世話物。上州佐野の絹商人で、「親の因果が子に報い」であばた顔の佐野次郎左衛門(菊五郎)は、下男の治六(松緑)とともに桜咲き誇る吉原仲之町に見物に出かけるが、花魁の八ツ橋(菊之助)に心を奪われてしまう。
やがて次郎左衛門は八ツ橋の元へ通いつめるようになり、身請け話がまとまろうとする。しかし、八ツ橋の親代わりである釣鐘の権八(団蔵)は、金の無心を断られた腹いせに八ツ橋の間夫(まぶ)である繁山栄之丞(三津五郎)を焚き付け、栄之丞は八ツ橋に次郎左衛門との縁を切るよう迫る。
切羽つまった八ツ橋は満座の中で次郎左衛門に愛想づかしをする。八ツ橋を深く恨んだ次郎左衛門は、数か月後に江戸に現われると、妖刀籠釣瓶で八ツ橋を斬り殺してしまう。

見どころは、何といっても序幕の「見染めの場」。花魁道中であらわれた八ツ橋の菊之助の目の覚めるような美しさといったらない。惚れ惚れするとはこのこと。
公演前に菊五郎は、「(次郎左衛門は)あまりにも完璧にできあがっている役で難しい。やりたくなかったけど、せがれ(菊之助)にどうしてもと言われたので」と「読売新聞」のインタビューで苦笑しながら語っている。菊五郎も昔、八ツ橋を演じていた。女形をやる役者として、若いときに自分も八ツ橋をぜひやりたいと菊之助のたっての願いで実現した演目のようだ。

1週間ほど前、BSの番組で菊之助のドキュメンタリーが放送されていて、「籠釣瓶」の八ツ橋の役づくりの苦心が描かれていた。特に序幕の「見染めの場」で、八ツ橋が次郎左衛門にニッコリ微笑みかけるシーン(この微笑みのおかげで次郎左衛門は八ツ橋に一目惚れして物語が始まる)は、昔の錦絵を見たりしてずいぶん研究していたようだ。

それで、どんな微笑みをするか注目して見ていたのだが、菊之助は口元をほころばせ、お歯黒をちょっと見せ、次郎左衛門にニッコリ微笑んで視線を中天に向ける(つまり舞台では2階席)。苦界にいる花魁というより、奔放な若い娘のような微笑みだった。
最後に八ツ橋は次郎左衛門に切り殺されるが、この場面も美しい。次郎左衛門に袈裟斬りにされ、スローモーションのように倒れていく。仰向けに倒れ、目を閉じた菊之助の表情がまたいい。

次郎左衛門を演じた菊五郎もさすがの演技。
満座で八ツ橋から愛想づかしをされた次郎左衛門は、終始八ツ橋に対して下手に出るが、幕切れでキッとした顔になる。ここに男としての次郎左衛門の決意がある。
単に色恋の話ではなく、満座で恥をかかされたことへの怒り。なぜ彼が狂気に走るかのナゾ解きがすでにこの場面にある。

『奴道成寺』は楽しい演目。三津五郎が鮮やかな踊りを次々と披露していく。彼の踊りのうまさはいうまでもないが、所化、つまりは修行僧との掛け合いがおもしろく、飽きさせない。
途中、口上があり、三味線方の杵屋巳太郎常磐津菊寿郎のそれぞれの襲名を三津五郎が紹介し、大きな拍手に包まれた。唄方、三味線方を大事にする三津五郎の心遣いに、うれしい気持ちになった。

[観劇データ]
十二月歌舞伎
12月13日夜の部
新橋演舞場 開演4時PM
1階2列16番