善福寺公園めぐり

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マグナム・コンタクトシート

第2次世界大戦後、ロバート・キャパらによって結成された写真家集団「マグナム・フォト」の創設65周年を記念して、「コンタクトシート」をまとめた写真集『マグナム・コンタクトシート(MAGNUM CONTACT SHEETS)』が出版された。

コンタクトシートは「ベタ焼き」ともいうが、主として35ミリカメラで撮ったフィルムネガを引き延ばしたりせずそのままダイレクトに印画紙にプリントしたもの。

その中には失敗作もあり、会心作もある。写真家はそれを見て自分が気に入ったコマを選び、好きな大きさに引き延ばしてプリントし、選び抜いたものだけを「作品」として発表する。だから玉石混合のコンタクトシートをそのまま公開するというのはなかなか珍しいことだ。

そう思って写真集を手にしようと思ったら青幻舎発行で1冊1万5000円もする。
とても買うのは無理と区立図書館の蔵書を調べたら、所蔵していなかった。「それならぜひとも区で買って」とリクエストしたら、しばらくして区立図書館の蔵書となり、晴れて手にすることができた。図書館も区民の知的財産として必要なものはちゃんと買ってくれるんだな。

この本には、マグナム・フォトに所属し世界に散らばる写真家69人、139点のコンタクトシートが、1930年代から2010年代まで、年代順に収録されている。ロバート・キャパの「ノルマンディー上陸」、ジョセフ・クーデルカの「プラハ侵攻」、ルネ・ブリの「チェ・ゲバラ」などのコンタクトシートの拡大写真に、写真家本人や写真家の遺産管理人が選んだ専門家が解説を加えている。

アメリカ副大統領ニクソンフルシチョフ(当時のソ連指導者)の胸を指でつついて指弾しているように見える写真は、本当は何かの展示会で談笑している風景で、35コマあるコンタクトシートのほかのコマではにこやかにしゃべっているのに、そのコマだけ攻撃的様子に写っていて、のちにニクソンの選挙ポスターに使われたという(1960年にケネディと争った大統領選挙で、ニクソンは敗れている)。
選ばれた1コマは、真実を覆い隠す役割もしていたようだ。

ロバート・キャパの「ノルマンディ上陸」は35ミリフィルム4本で撮影されたが、ラボのミスで現像に失敗してしまった。しかし、現像をミスしてボケた感じの写真になったおかげで、かえってドラマチックな臨場感あふれる写真になったという。

葉巻をくわえたチェ・ゲバラの有名な写真も、なぜあの写真が選ばれたのか、コンタクトシートをじっくりと眺めるとよくわかる。

鉄の女・サッチャーの写真は、42回シャッターを切ったうち、「これぞ鉄の女」といえるのはたった1枚しかない。逆に言えば、よくぞその1枚が撮れた、といえるのだろう。

今はデジタルの時代で、撮った直後に出来ばえを確認できる上、失敗作はその場で消去できるが、シャッターを押したすべてのシーンこそ、本当は残すべきなのかもしれない。
歴史を検証する上でも、思い出を振り返る上でも。