善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

#小説

『偽りの楽園』とトロール

トム・ロブ・スミス『偽りの楽園』(田口俊樹訳、新潮文庫・上下) 『チャイルド44』でデビューした作家の最新作。 なお以下はネタバレになるやもしれないので本書を未読の方はご用心。 あらすじは、両親はスウェーデンで幸せな老後を送っていると思っていた…

物書同心居眠り紋蔵

佐藤雅美の「物書同心居眠り紋蔵」シリーズの最新作『御奉行の火照り』(講談社)。 巻末の一覧表をみると本作で14冊目となる。 彼の作品は時代考証──特に江戸の経済とか司法の仕組みなど──がしっかりしているので安心して読める。 今回読んでいて、紋蔵の生…

死のドレスを花婿に

フランスのミステリー作家、ピエール・ルメートル『死のドレスを花婿に』(文春文庫)を読む。 昨年のミステリーランキングの話題をさらった『その女アレックス』の作者の小説というので手にとる(日本でこの人の本はまだ2冊しか出ていない。フランス本国で…

『ブエノスアイレスに消えた』とアルメニア料理

グスタボ・マラホビッチ『ブエノスアイレスに消えた』(宮崎真紀訳、ハヤカワポケミス)を読む。 アルゼンチン発のミステリー。 二転三転する意外な展開に、最後の方はイッキ読み。 建築家ファビアンの4歳になる娘とベビーシッターは、ブエノスアイレスの地…

イアン・ランキン 他人の墓の中に立ち

なでしこ、準決勝でイングランドに2対1で勝つ。 あんな決まり方があるものかと驚く勝利。川澄選手の長めのパスからのオウンゴールだった。そういえば4年前の準決勝でも2得点をあげたのが川澄選手。特に2点目は意表をつく超ロングシュートだった。 やっぱり何…

ピエール・ルメートル その女アレックス

話題になったピエール・ルメートル『その女アレックス』(橘明美訳、文春文庫)を読む。 原題は『ALEX』。 テンポの速い筆致、意外な展開に、ほとんど一気に読んでしまった。 おどろおどろしい話だが、不思議とサラッとしている。 このところ北欧のミステリ…

ヨルン・リーエル・ホルスト 猟犬

ヨルン・リーエル・ホルスト『猟犬』(訳・猪俣和夫 ハヤカワ・ポケット・ミステリー)を読む。 ノルウェー発のミステリー。 舞台はオスロの南西100キロ余りに位置するラルヴィクという人口2万3千人ほどの町。そこの警察署に勤務するベテラン刑事ヴィリアム…

ありふれた祈り

ウィリアム・ケント・クルーガー『ありふれた祈り』(宇佐川晶子訳、ハヤカワポケミス) アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)最優秀長篇賞受賞作(ほかにもいろいろ受賞)で、ハヤカワポケミス刊というから犯人探しのミステリーかと思いきや、優れた青春…

井上ひさし 短編中編小説集成

井上ひさし『短編中編小説集成』(岩波書店)の第1、第2巻を読む。 戯曲から小説、エッセイと多彩な作家活動をしてきた井上ひさしの作品群の中から、短編・中編小説を年代順に収める初の全集。去年の秋から刊行されている。その第1巻と第2巻。 第1巻は「ブン…

『かたづの!』が問うもの

中島京子『かたづの!』(集英社)を読む。 直木賞を受賞し、映画にもなった『小さいおうち』の作者の最新作というので手にとる。 新聞の広告によれば、江戸時代に実在した東北・南部藩の女大名の物語というから歴史小説か? それにしても『かたづの!』って…

ゴースト・スナイパー

ジェフリー・ディーヴァー『ゴースト・スナイパー』(池田真紀子訳、文藝春秋)。 捜査中の事故での脊髄損傷による四肢マヒで車椅子生活を送りながら、なおかつ天才科学捜査官(今は立場上は民間人)リンカーン・ライム・シリーズの10作目。 第1作の『ボーン…

マイクル・コナリー 判決破棄

マイクル・コナリー『判決破棄』(上下刊・講談社文庫、古沢嘉道訳)を読む。 原題は『The Reversal』(2010年)。本格的なリーガル・サスペンスを堪能。 その一方で、本書はリンカーン弁護士ミッキー・ハラーシリーズの3冊目だが、前作に続きハリー・ボッシ…

最後の1分

エレナー・アップデール『最後の1分』(東京創元社 杉田七重訳) イギリスの作家の作品。 ここで起こった事件自体は悲劇的で悲惨な出来事であるのに、あえてなのか、軽く描いていてサラッと読める。事実、休日の1日で読み終えた。 この小説のミソは、大惨事…

水底の棘 法医昆虫学捜査官

川瀬七緒『水底の棘 法医昆虫学捜査官』(講談社)を読む。 法医昆虫学捜査官シリーズの3作目。最初の『147ヘルツの警鐘』がおもしろかったのでこの本も手にとる。 最初の作品はたしかハチが出てきて、今回は水底に棲む生物。どんな物語か、出版社の口上によ…

ヘニング・マンケル 北京から来た男

ヘニング・マンケル『北京から来た男』(上下巻、柳沢由実子訳、東京創元社) クルト・ヴァランダー警部シリーズを何冊か呼んで以来ファンになっている作家の作品。 東京創元社のHPからあらすじを抜粋すると──。 凍てつくような寒さの未明、スウェーデンの小…

逢坂の六人

周防柳『逢坂の六人』(集英社)を読む。 史上初のやまと歌の勅撰集『古今和歌集』成立をめぐる物語。 紀友則、壬生忠岑、凡河内躬恒とともに初の勅撰和歌集の撰者となった紀貫之は、やまと歌の歌集なのだからと、序文を仮名文字で執筆する。 この「仮名序」…

推定脅威

末須本有生『推定脅威』(文藝春秋) 第21回松本清張賞を受賞した作品。 自衛隊機をめぐる航空ミステリー。それなりにおもしろく読めた。 あらすじは──。 自衛隊戦闘機「TF-1」が、スクランブル飛行中に墜落した。 事故を受けて防衛省は機体を製造する浜松の…

特捜部Q 知りすぎたマルコ

ユッシ・エーズラ・オールスン『特捜部Q 知りすぎたマルコ』 (吉田薫訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ)を読む。 デンマークの作家、オールスンの『特捜部Q』シリーズ第5弾。 第1作から読み続けているが、ますます快調。 社会派ミステリー作家らしく、今回の…

王朝小遊記

諸田玲子『王朝小遊記』(文藝春秋)を読む。 内容は──。 ときは万寿二年(1025年)、平安時代の爛熟期。物売女、没落貴族、主をうしなった女房、貴族の不良少年、太宰府がえりの元勇将は、腐った世をはかなんでいる。ひょんな縁で時の実力者・藤原実資の邸…

最後の紙面

トム・ラックマン『最後の紙面』(日経文芸文庫)。訳は東江一紀。 原題は『The Imperfectionists』。「不完全な人たち」という意味か。本書を読んでみると原題の方がピッタリな気がする。 ローマにある新聞社(といっても架空の)を舞台に、第一線の記者か…

ネルーダ事件

きのうは根岸にあるヤキトリ屋「鳥茂」を久々に訪問。 4人掛けのテーブル2つ、2人用のテーブル1つ、それに12、3人ぐらいは座れそうなカウンターの小さな店だが、きのうは開店時間の6時ジャストに行ったら、先客が2人。おもむろに席に着いたら、直後に次々と…

村上海賊の娘

和田竜『村上海賊の娘』(新潮社)を読む。 つい最近、「本屋大賞」を受賞した話題の本だ。 戦国時代、顕如率いる一向宗(浄土真宗)の門徒集団と織田信長は10年に及ぶ戦いを繰り返していて、1576年(天正4年)の第一次木津川口の戦いにおける村上水軍の当主…

シャドウ・ストーカー

ジェフリー・ディーヴァー『シャドウ・ストーカー』(池田真紀子訳、文藝春秋) 相手の行動から心理を読み取るワザを「キネシクス」というそうだが、そのエキスパートであるキャサリン・ダンス捜査官シリーズの1冊。去年の秋に出た本。 彼女は、休暇で訪れた…

日本人にも教訓的な『コリーニ事件』

フェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』(酒寄進一訳・東京創元社)。 日本人にとっても見すごせない問題を突きつける小説として読んだ。 以下は、出版からもう半年以上たっているし、ネタバレしないと言えないこともあるので、本書の結末に…

シスターズ・ブラザーズ

パトリック・デウィット『シスターズ・ブラザーズ』(茂木健訳・東京創元社) ヘンな題名と思ったら、名字がシスターズという兄弟の話。 これがおもしろくて、仕事の往復の電車の中とか、アッという間に読み終えてしまった。 ミステリーかと思って手に取った…

刑事マルティン・ベック 笑う警官

今年の読み納めは北欧ミステリーの『刑事マルティン・ベック 笑う警官』(マイ・シューヴァルとペール・ヴァ―ルーの共著、柳沢由実子訳、角川文庫)。 もともとはスウェーデンで1968年に刊行され、英訳版が1971年にアメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞を受賞…

池上永一 黙示録

池上永一『黙示録』(角川書店)を読む。 『テンペスト』以来の池上永一の久々の長編。何しろ上下2段組で630ページ余もある。 『テンペスト』同様、いやそれ以上にハチャメチャで、メチャクチャで、よくいえば波瀾万丈の物語。ときどき「そんなばかな!」と…

ミステリーの醍醐味 三秒間の死角

アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム『三秒間の死角』(訳ヘレンハルメ美穂、角川文庫、上下巻)を読む。 私が「このミステリーはすごい!」の選者だったら、迷うことなくベストテンの上位に1票を投じた。そんな作品だった。 舞台はスウェーデン…

上野誠 天平グレート・ジャーニー

上野誠『天平グレート・ジャーニー 遣唐使・平群広成の数奇な冒険』(講談社)を読む。 著者は奈良大学文学部教授で万葉文化の研究家。 小説なのだから空想の世界を描いているのだろうが、学者だけに資料を丹念に読み、それを元に想像力を膨らませているはず…

松井今朝子 壺中の回廊

松井今朝子『壺中(こちゅう)の回廊』(集英社)を読む。 1930年(昭和5年)の東京が舞台。関東大震災の記憶も生々しい中、前年にはニューヨーク株式が大暴落して世界恐慌の波が押し寄せ、時代は戦争への道をつきすすもうとしているとき、歌舞伎の殿堂・木…